毎年、恒例になっていた中国繋がりの花見の会で、在日歴10年を超す中国人の友人が、「国民に自信と笑顔が戻った」と、祖国の状況を披露していた。
こう伝えると、不動産バブルの破綻に加え、トランプ米大統領の中国を敵視した高関税政策で中国経済が断崖絶壁に立っているという情報に接している多くの人は、「なぜ?」と疑問に思うだろう。
しかし、破綻状態にある経済の裏側では、先進国を驚愕させる革新的な出来事が続出し、自信喪失に陥っていた中国人に自信と誇りを取り戻させつつあるのが、知られざる中国の実情である。理由を3つ紹介しよう。
まずは、AI(人工知能)のDeepSeekだ。上海市に隣接する浙江省杭州市で誕生した新興起業のDeepSeek(深度求索)が、安価な方法でAIの開発技術に成功。世界を驚愕させた。
AIは、21世紀の革新を代表する技術と言われている。ただし、高レベルの技術者の確保と高度な半導体サプライチェーンの確立が不可欠なうえ、莫大な投資が必要となるため、開発の先端を走る米国企業に追い付くことはほとんどの国で不可能とみられていた。
ところがこの1月末、第1次トランプ政権時代から敵視され半導体の手当が難しくなり、最先端企業ですら存続が厳しくなっていた中国で、新興の小企業が技術開発に成功したのである。これに、閉塞感に覆われていた中国人の心に灯がともったのは当然だろう。
2つ目は、電子商取引大手アリババグループの創業者、馬雲(ジャック・マー)氏の存在だ。
中国の経済人の会合で「中国当局の政策は間違っている。金融政策は『質屋』のレベルだ」と語り、習近平政府から追放されていたジャック・マー氏が今春の全人代を前に経済界への復帰が認められ、活動を再開したのだ。
中国政府は認めていないが、国内総生産(GDP)の90%は民間企業が稼ぎ出していると言われている。しかも、雇用の96%以上が民間企業だ。要は中国政府は、経済を立て直すためには民間経済を活性化すべきだと気が付いたのだ。民間企業の象徴であったジャック・マー氏を復活させることで、14億の中国人の不満と不安を解消させ、ビジネスへ挑戦する気概を呼び覚まそうというのだ。
これには、国有企業に先駆けるようにして先端技術に取り組んでいる企業は喝采を上げているという。
3つ目として、アニメ映画の「ナタ~魔童大暴れ」(「ナタ2」)も、中国人に自信を取り戻させた。消滅した「魂」を復活させるために様々な試練と闘う中国の伝説を物語にした同作は、中国映画のイメージであった「カンフー」や「反日」モノとは異なり、中国文化の復興を謳っているから革新的である。旧正月に公開されるや、瞬く間に中国全土で人気が爆発し、中国大陸からアジアへ、さらに「一帯一路」沿いに物凄い勢いで伝播している。
中国人の友人は、「世界の人々が中国の伝統文化に酔いしれる姿は、暗く落ち込んでいた心に“灯り”をともし、自信を呼び戻したのです」とも語っていた。
(団勇人・ジャーナリスト)