連日のように「高額療養費制度」の自己負担引き上げについて報道されているので、多くの人が知ることになったと思う。
そもそも高額療養費制度とは、医療機関や薬局などで支払った1カ月(同一月)の総医療費が高額になった際、年齢や所得によって支払う上限額が決められていて、その上限額を超えて支払った分は、手続きをすることで、あとで払い戻してくれるというもの。
8月から1カ月あたりの上限額が引き上げられることになったが、まずは今の制度を理解しておきたい。
例えば、69歳以下で年収370万円から770万円という最も多くの人の場合、1カ月にかかった医療費のうち、3割負担をしなくてはならないのは26万7000円まで。その3割だから8万100円だ(過去12カ月のうち3回上限額に達した際は、4回目以降から4万4400円)。
そして、もし1カ月の医療費が26万7000円以上だった場合は、超えた分の1%は自己負担になる。
仮に1カ月で100万円かかったとすると、26万7000円以上の部分(73万3000円)の1%の7330円は自己負担。つまり、3割負担分(8万100円)と合わせると、1カ月で8万7430円が自己負担になるというわけだ。
しかし、これは役所に高額療養費支給申請書を提出して21万2570円が戻ってきた時の話。病院の会計窓口ではまず、100万円の3割負担分の30万円を支払わなければならない。
ここでため息をつかれる方もいると思う。30万円といえば大金だ。そんな高額をさっと払えない人もいるだろうし、定期預金を崩さなくちゃいけないな、と考えた人もいると思う。
ただし、そんな大金を払わずに、最初から高額療養費制度を適用した金額(8万100円+α)を支払えばいい〝裏ワザ〟がある。
それは、事前に役所に頼んで限度額適用認定証を発行してもらっておくことだ。この認定証の有効期限は毎年7月末まで。仮に8月1日に認定証を発行してもらえば有効期限の最長は1年間となる。
ちなみに、入院中の食事代(住民税非課税世帯は減額あり)や差額ベッド代は高額療養費の対象外。つまり、高額療養費制度は公的医療保険が適用されるもののみで、保険外の高額な歯科医療などは高額療養費制度ではカバーされないというわけだ。
年に一度、役所に認定証を発行してもらうのは面倒だが、マイナンバーカードを健康保険証として利用するマイナ保険証を提示すれば、認定証がなくても同じように扱われる。
ここで知っておいてもらいたいのは、高額療養費は1カ月の負担額と言われるが、それは、月々の1日から末日までの支払額で決まる。だから同じ20日間の入院でも、3月2日から21日までで、総医療費を3月中に払う場合ならいいけど、3月25日から4月13日まで入院した場合は、2カ月にわたるので自己負担額が変わるということだ。
また、世帯の合算と、69歳以下の治療に関しては2万1000円ルールがあることも知っておきたい。これは、自己負担が2万1000円以下の医療費は、高額療養費の計算に含まれないというルールだ。
例えば、ある家庭で夫が3割負担で7万円、別の病院で2万円、病院外の検査機関で1万5000円、妻が歯医者の保険医療で2万円、子供が骨を折って2万円を支払ったとする。
家族全体では14万5000円なので、高額療養費制度でお金が戻ってくるかと思いきや、1円も戻ってこない。なぜなら2万1000円を超えているのは夫の7万円のみだからだ。
これらの他にもさまざまケースがあるのだが、いずれにしても今年の8月から69歳以下で年収370万円から770万円の人の自己負担の上限額は、今の8万100円から8万8200円程度に引き上げられることは頭に入れておきたい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。8月5日に新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。