11月5日に迫った米大統領選挙だが、ウクライナへ侵攻し続けるロシアの隣国、モルドバでも11月3日、現職で親欧米派のマイア・サンドゥ大統領と、親露派のアレクサンドル・ストヤノグロ元検事総長による、一騎打ちとなる決選投票が行われる。
旧ソ連構成国であるモルドバで、EU加盟の是非を問う国民投票と大統領選が実施されたのは10月20日のこと。選挙には過去最多の11人が立候補。結果、2期目を目指す現職のサンドゥが1位で42.45%を獲得したものの、当選に必要な過半数に届かず、決着が持ち越されることになった。
さらに、EU加盟の是非を問う国民投票(投票率51.6%)では、賛成50.46%、反対49.54%と、まさに僅差での勝利となったわけだが、反対票が増えた理由については様々な憶測が広がっている。全国紙国際部記者が説明する。
「モルドバがロシアのウクライナ侵攻を受け、ジョージアと共にEUへの加盟を申請したのは、22年3月。理由はもちろん、仮にロシア軍がドンバスからマリウポリ、クリミア、そしてオデーサへと占領地域を拡大した場合、最終的にはモルドバにまで到達するのでは、という懸念があったからです。結果、24年6月にはEU加盟交渉が始まり、その推進役を務めたのが現職のサンドゥ氏だったというわけです」
しかし、モルドバのウクライナ国境周辺には、国際的には独立国として承認されていないものの、ロシア系住民が多く住む沿ドニエストル(トランスニストリア)共和国がある。
「ここにはロシア支援のもと、1500人のロシア軍も駐留しています。ただ、プーチン氏が22年に同地域に近いウクライナ東・南部4州の併合を宣言したことで、軍事的な脅威から国民の反ロ感情が高まっているとも伝えられ、モルドバでは以前から親露派と親欧米派、両者による対立が長い間続いてきたという歴史がある。それが、10月に行われたEU加盟の是非を問う国民投票結果にも現れたということでしょうね」(同)
言うまでもないが、EUに加盟すれば、加盟国は金銭的側面も含めEUの方針に従わざるをえなくなる。それは「ヨーロッパ最貧国」ともいわれるモルドバにとって大きな経済的負担となることは必至。それも49.54%という反対票の要因だとみられているが、
「もちろん、モルドバを勢力圏に留めておきたいプーチン氏としては、モルドバのEU加盟は何としても阻止したい。そこで噴出したのがロシアによる妨害工作で、9月21日、EUの欧州委員会は欧州安保協力機構(OSCE)の選挙監視団などの情報として、モルドバ選挙戦においてロシアが不正な資金提供や偽情報キャンペーンを張り、さらにサイバー攻撃を含むハイブリッド戦争を仕掛け介入したとして、『ロシアはモルドバの民主主義を弱体化させようとしたが、選挙と国民投票を成功裏に実施したモルドバ当局の努力を称賛する』との声明を発表。大規模な買収工作が行われた『明白な証拠がある』と主張し波紋が広がったんです」(同)
さらに、カービー米大統領補佐官も記者会見の中で、「EU加盟阻止を狙うロシアがここ数カ月間、モルドバ大統領選に影響を与えるために数百万ドルを費やしてきた。我々の分析では、この資金はロシアが支持する政党への援助や、SNSでの偽情報拡散に使われてきた」と指摘。しかし選挙介入が「失敗」に終わったとして「モルドバの民主主義が強靱であることを示した」と強調したことで、ロシアによる買収工作がより信ぴょう性を帯びたのである。
10月のそんな騒動を経ておこわなれる11月の大統領選決選投票だが、まだまだ一波乱二波乱ありそうな気配だ。
(灯倫太郎)