ロシアの極東地域とモスクワを結ぶ、総延長9000㎞超の世界最長の鉄道として知られるシベリア鉄道。途中いくつも分岐して中央アジアや極東地域の重要な大動脈となっているが、実は高速鉄道化計画があるという。
モスクワからカザン、エカテリンブルグ、アスタナ(カザフスタン)、イルクーツク、ウランバートル(モンゴル)を経て、中国の北京まで向かうルートで、その第一段階としてモスクワ―カザンの高速鉄道の23年までの開業が予定されていた。だが、開業はおろか、工事が着工されているという話も聞かない。
「ロシア政府も一度はGOサインを出し、中国側が工事を請け負うことも決まっていましたが、19年にプーチン大統領が計画を白紙に戻してしまったんです」(ロシア事情に詳しいジャーナリスト)
その背景には全区間で2420億ドル(約37兆円)と言われる莫大な建設費がネックになっているようだ。
「しかも、10年ほど前の試算のため、現在だとさらに建設費がかかります。完成すれば鉄道史に残る大偉業でしたが、高収益が望めるとは言い難く英断とも言えます」(同)
この決定に関してはロシア国内では一定の支持を得ているが、一方でモスクワ―カザンの約700㎞の区間だけなら需要があったと指摘する声もある。高速鉄道の停車駅になるはずだったニジノ・ノヴゴロドの人口は、カザンとほぼ同じ約120万人。他の停車駅として予定されていたウラジミールは34万人、チェボクサルも44万人で周辺地域を含めると、ある程度の需要が期待できたからだ。
「白紙撤回した背景には、当時すでにウクライナへの軍事侵攻を計画しており、戦費捻出のためだったと言われています。実際に試算していたシベリア高速鉄道の建設費は、ロシアの今年の国防費のほぼ2倍。工事を始めていたら戦争どころではなかったはずです」(同)
軍事費に国の予算をつぎ込むのであれば、高速鉄道の建設費に回したほうがよっぽど平和的な使い道だと思うが…。