【ロシア】プーチンの歪んだ価値観が露呈「出産したくない」を弾圧し始めた人口急減の自業自得

 かねてから、「女性は子供をたくさん産むべきで、それがロシアの伝統的家族の姿だ」と言ってはばからず、毎年3月に行われる「国際女性デー」では決まって同様の祝辞を述べているプーチン大統領。今年3月8日の同イベントでも、「何よりもまず、女性たちに天から与えられた才は子供を産むことだ。母性は女性の持つ最良の使命だ」などと発言。世界中でジェンダーや多様性の問題を巡る動きが活発化する中、相変わらずそれに逆行するような姿勢を見せた。

 プーチン氏はロシアが直面する出生率低下の危機への対応策として、2022年8月、10人以上の子どもを産んだ女性を「英雄」として称える報奨制度を復活させる大統領令に署名。10番目の子どもが1歳になり、ほかの子どもも全て成長している場合、該当する母親に100万ルーブル(約230万円)の報奨金を授与しているのだが…。

「22年のウクライナ侵攻以降、戦場に送られた多くのロシア人兵士が死亡。その正確な数字は当局によって明らかにされていないものの、ロシア連邦統計局がこの年の夏に発表した統計によれば、1~5月の間だけで月間平均8万6000人が減少していることが明らかになっています。昨年の時点で30万人以上が戦争に駆り出されたことを考えれば、いったいどれほど人口減少が加速しているのか。加えてロシアでも少子化が進んでいて、1人の女性が生涯に産む子供の推計人数である合計特殊出生率は、2015年の1.78から、2022年には1.42まで下がっている。もちろんウクライナ侵略で子供を持つ世代の男性に死傷者が出ていることもありますが、このまま出生率が低下した場合、まさに国家存亡の危機となる可能性もあるということです」(ロシアウォッチャー)

 そこでロシアでは、小学校の高学年などを対象に「家族のあるべき姿」を学ぶ科目を新設し、結婚して多くの子供を持ち、多子家族になることこそが「理想の形」というプロバガンダを展開。さらに価値観から外れる考えを弾圧すべく、権利を訴える市民運動等を「伝統的価値を破壊する欧米の思想を持つ過激派による運動」と認定し、それを禁止する法案を発令してきた。

「ただ、いかに報奨金を与え多産を奨励しようとしても、ウクライナ侵攻の余波で国内が厳しい物価上昇に見舞われ、特に都心部では生活費が高騰。230万円程度の報奨金では、とてもではないが10人の子供を育てられるはずもなく、多産を望む女性が増えない。そこで今度は、自分の意思で子供を持たないことを選ぶ生き方、つまり『チャイルドフリー』をSNS等で広めることは『出産に反対するプロパガンダ(政治宣伝)は、自分を産んだ母親、そして国家に逆らうことだ』として、違反すれば最大500万ルーブル(約780万円)の罰金を科す法案がロシア下院で審議されているという。驚くばかりです」(同)

 タス通信などによれば、この法案にはすでに100人以上の議員が賛同し、露大統領府も大歓迎しているため成立は確実視されている。

 22年7月、ロシア独立ニュースチャネル「General SVR」が、当時69歳だったプーチン氏の愛人と言われているアリーナ・カバエワ氏が娘を妊娠した、と報じたじたことがあった。だがその際、プーチン氏には少なくとも7人の子女がいるとして、生まれてくる子供が女の子とわかってプーチン氏が不満をあらわにし、その冷淡な反応にカバエワ氏が激怒したと伝えられている。もちろん真相はわからないが、今回のチャイルドフリー規制にも、プーチン氏の歪んだジェンダー観が透けて見える。

(灯倫太郎)

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