現在、アフガニスタンで実権を握るのが、イスラム主義勢力、タリバンだ。タリバンは2001年の米中枢同時テロを実行したウサマ・ビンラディン率いる国際テロ組織「アルカイダ」と協力関係にあったことで、米英が中心となり壊滅作戦を展開。当時、欧米との協調政策を進めていたロシアもこれを支持し、03年にはタリバンをテロ組織に指定していた。
ところが11月25日、ロシア上下両院の議員団が、露国内でのテロ組織指定の解除手続きを定める法案を下院に提出。法案に具体的な組織名は書かれていないものの、多くの露メディアが「タリバンの指定解除を念頭に置いたものだ」と報じ波紋が広がっている。
タリバンはもともと、イスラム教の神学校「マドラサ」で学んでいた学生が中心となって結成された組織で、アラビア語で「タリブ」。それが現地語の複数形で「タリバン」と呼ばれるようになったとされる。そんなタリバンが掲げたのが、長く続いたアフガニスタンの混乱を収めるというもので、それに同調し軍事的支援をしたのが隣国パキスタンだった。
しかし、旧タリバン政権は女性の教育や就労などを禁止したり、平然と公開処刑が行うなど、国際社会から批判を受けしだいに孤立。そんな中、スーダンにいたアルカイダのビンラディンがアフガニスタンに拠点を移し支援を行ったことで、両者の関係が蜜月になった。そして勃発したのが、「9.11」だったというわけである。
「当時、ロシアは欧米との連携強化を図っていたこともありタリバンをテロ組織に指定したわけですが、実はそうすることでイスラム教徒の多いチェチェンの独立派勢力と、イスラム組織との関係強化にくさびを打ち込んでおきたいという裏事情もあったようです。ところが、その後ロシアと欧米との関係は徐々に冷え込み、14年にロシアが南部クリミア半島を併合。22年にはウクライナへの侵攻に踏み切ったことで、両者の対立構図が決定的となった。そこで反欧米を掲げるタリバンを北朝鮮やイランなどとつくる陣営の一角に取り込みたいと考え、色々と関係修復を模索していたようです」(中東情勢に詳しいジャーナリスト)
そんな両者の関係修復が加速するきっかけとなったのが、今年3月の過激派組織「イスラム国」(IS)によるモスクワ近郊のコンサートホール襲撃事件。ISは22年9月にもアフガンの首都カブールのロシア大使館近くで自爆テロを決行。大使館職員2人を含む6人が死亡するという事件を起こしており、コンサートホール襲撃事件の実行犯であるIS分派「ISホラサン州」(IS―K)も、タリバンとは敵対関係にある組織だった。
「つまり、ロシアとしては『テロ組織指定解除』を餌にタリバンを抱き込み、反欧米陣営を強化するとともに、ISに対するテロ対策で協力させたいと考えた。それが、今回のテロ組織指定の解除法案提出だったというわけです」(同)
ロシア外務省が指定解除について検討中であるとはじめて表明したのは今年4月。5月にはプーチン大統領も「タリバンは現在のアフガンの統治者だ。この現実に基づいて関係を構築する必要がある」などと、関係強化に意欲を示し、9月にロシアが主催した国際会議「東方経済フォーラム」にもタリバンを招待。着々とタリバンのテロ指定解除に向け駒を進めてきた。
とはいえ、タリバンの最終目標は、「外国支配」からアフガニスタンを解放し、現地のイスラムの考え方に基づく統治で、その軸となるのが内政と社会制度の「現地化」だ。そのため、タリバンがロシアにどこまで同調し、ロシア寄りの姿勢を取るかどうかは未知数とされる。一筋縄ではいかないタリバンに対し、プーチン氏はどう出るのか。
(灯倫太郎)