山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」低価格の裏に「ウナギ職人いらず」ボタン1つで串焼き完了

【今回のお値段「うな重・梅」:うなぎ卸値500〜600円前後(リーズナブル店一人前2000円前後)】

 今や、ウナギの旬といえば「土用の丑の日」のイメージが強いが、本来、天然のウナギの旬は脂が乗った秋から冬だった。養殖ウナギが出回るようになってから、強引に、人間の都合で夏場の「土用の丑」前後に流通量が増える仕組みにしてしまったらしい。当然、馴染が深いのはご飯にウナギの蒲焼が乗ったうな重だが、ある外食業界関係者によれば、

「うな重と言っても、価格的に、大きく分けて三種類です。一人前4000〜5000円以上とるような高級店、2000〜3000円くらいのリーズナブル店、それに牛丼チェーンなど、1000円そこそこで提供するような店。最近は、真ん中のリーズナブル店が、チェーン化して売り上げを伸ばしてるのが目立ちますね」

 高級店に負けない素材と味を、より安く、効率的に出すのを目標に店舗を増やしているのだが、一体原価はどのくらいになるのか?

 まず肝心のウナギだが、だいたい昨今は卸値はキロ5000〜6000円で推移してる。もちろん養殖で、天然ウナギはほぼ皆無だ。ウナギ1尾が200グラムとすれば、「うな重・梅」で半尾使うとして100グラムで500〜600円くらい。「うな重・松」なら1尾使って1000円以上。プラスご飯とお新香などが200〜300円くらいかかったものを、「梅」なら2000円前後、「松」で3000円前後で出したり。材料の原価率は40%前後といったところか。

 だが、その調理法が高級店とリーズナブル店では大きく違う。昔から「串うち3年、焼き一生」と言われるくらい、ウナギ職人の道は厳しいとされていた。しかし、今でも職人が焼いているのは高級店くらい。リーズナブル店では、あらかじめ加工、調理されたウナギを自動焼き機に入れ、ボタンを押すだけ。バイト店員でのフルオペレーションが可能で、これで人件費の大幅削減が実現している。

 だったら、原料であるウナギの値段がもっと安くなれば、より高級な素材も手軽に食べられそうだが、前出・外食産業関係者によると、

「卵の状態から成魚までを完全養殖できれば、一気にウナギの値段は下がるかもしれません。実験段階としては成功してます。だけど、卵からシラスウナギと呼ばれる幼魚まで半年くらいかかる上に水質やエサにも気を遣わないといけないので、経費がやたらかかる。つまり現状では採算が取れないのです」

 やむなく、養殖ではシラスウナギを仕入れて成長させるわけだが、そのシラスウナギがキロ250万円になってしまうなど、もう高値更新中。

 やはり「うな重」は庶民にとって高級メニューであり続けるのだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう)30年くらい前、ある雑誌の連載記事の取材のため、毎週、あの赤塚不二夫先生のお宅にうかがっていた。よく食事にウナギが出た。忘れられない贅沢だ。

マネー