8月8日午後4時半すぎ、日向灘の深さ31キロを震源とするマグニチュード7.1の地震が発生。宮崎市の宮崎港では50センチの津波が観測され、九州から四国各地に津波が到達していたことが気象庁により発表された。同庁によればその後12日現在まで地殻変動や地震活動に大きな変化は見られないものの、南海トラフ地震の想定震源域では大規模地震発生の可能性が高まったとして、臨時情報を出し注意を呼びかけている。
気象庁が巨大地震に備え、防災対策推進地域に指定しているのは29の都府県の707市町村だが、今回の臨時情報発表を受け、和歌山県白浜町では町内4カ所の海水浴場を閉鎖。10日開催予定だった花火大会の中止を決定。他県の観光地にあるホテルでも、宿泊予約のキャンセルが相次ぐなど多大な影響が出ている。
むろん、和歌山県に隣接する大阪府も巨大地震注意の対象地域に入っており、そこで改めて安全性が問われているのが、来年4月13日から半年間、人工島の夢洲(大阪市此花区)で開催される大阪・関西万博だ。全国紙記者の話。
「大坂・関西万博で見込まれる会期中の来場者数は、約2800万人超。運営主体の日本国際博覧会協会が策定した防災計画によれば、仮に開催期間中に南海トラフ巨大地震が発生した場合、帰宅困難者は来場者の約7割にあたる最大15万人。それを想定し、来場者が島内に取り残された場合、発生初日は場内にある飲食店などの食料を提供。その後4日間は場内に備蓄する60万食で賄うとの計画を発表しています。さらに、15万人は3日のうちに船舶などで避難させるとしていますが、夢洲がある大阪湾の関西空港では2018年9月、台風21号の直撃で空港島の連絡橋にタンカーが衝突して道路と鉄道が崩壊。空港島に一時約8000人が取り残されるという事故が起こったことは記憶に新しい。こうした想定外の災害があった場合、はたして計画通りに機能するのか。今回の南海トラフ地震臨時情報発表を受け、改めて安全性を問う声が強まっています」
夢洲まで行き来できるのは、北側の橋と東側にあるトンネル及び、地下鉄のみ。大地震に限らず、台風による暴風でも通行止めや運休が余儀なくされることになる。
「それにもかかわらず、当初、日本国際博覧会協会から発表された防災基本計画では、自衛の消防体制と常駐の医療従事所を設置するものの、具体的な避難計画は別途定めるという曖昧なものだった。さすがに今年4月、大阪府の吉村洋文知事が『夏までには具体的な計画を発表する』としていたものの、いまだ発表されていないことから、9月にずれ込むことは必至でしょう。これまでの防災基本計画では、予想最大震度が6弱だとしても、粘土質の土砂で埋め立てるなどの対策を講じているため、『会場の大部分は液状化が起こらない想定となっている』としてきました。さらに津波も防波堤を11メートルかさ上げすることにより、浸水被害は食い止められると推定しています。ただ、想定はあくまでも机上の話。実際に地震が起こったら、津波や液状化の懸念は拭いきれません」(同)
というのも、万博会場跡地については、すでにIR(統合型リゾート)としての利用が決まっているが、当初大阪市は「液状化はしない」と主張していた。しかし何のことはない、IR業者からリスクを指摘され、地盤改良工事ほか、その対策などに最大788億円の公金が使われることになったからだ。
「すなわち、それは大阪市がもともと算定していた基準そのものに問題があったということ。にもかかわらず、その前提で避難想定し安全を確保しています、と発表するなど、全く持ってありえない話。つまり、実際に地震が起こってみなければ何が起こるかまったくわからないということなんです」(同)
大坂・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。そしてサブテーマには「いのちを救う」という言葉が綴られているが、その言葉通り、まずは安全第一での開催を願うばかりである。
(灯倫太郎)