いよいよパリオリンピックが幕を開けた。7月24日(日本時間25日)にはパリのスタジアム「パルク・デ・プランス」で、サッカー男子のイスラエル対マリ戦が行われ、フランス治安当局が1000人態勢でテロへの警戒に当たる中、試合は1対1の引き分け。イスラエル代表は30日に日本代表と対戦するが、その際も同様規模での厳重な警戒態勢が敷かれることになるだろう。
26日には五輪の開会式が開催されるセーヌ川付近で周辺に住む市民2万人あまりの保安調査が実施されたが、そんな物々しい中で網にかかったのが、ロシア国籍の40代の男だった。
男の逮捕を報じた24日付の地元紙「ル・モンド」によると、男はロシア国籍の有名料理人で、現地警察によりスパイ容疑で逮捕されたという。外報部記者の話。
「フランス検察の発表では、男はもともとモスクワでファンドマネジャーをしていたようなのですが、2010年、突然仕事を辞めパリのある料理学校に入学。修了した後、14年にわたりパリを拠点に料理店などで働き、近年は個人料理人として仕事をしていたそう。ロシアのテレビ番組などにも出演し、そこそこ名の知られる料理人だったそうです」
当局によれば、男はロシア情報当局と結託し、パリ五輪開幕式の妨害計画を企てており、情報を得たパリ地方検察庁の警察捜査介入部(BRI)が、男が住むパリのマンションを急襲、逮捕拘留にいたったという。
「逮捕後、男の自宅からはロシア連邦保安局(FSB)隷下の特殊部隊と関連した文書が見つかったという。現段階で男が具体的にどのような妨害計画を企てていたのかについて、当局は明らかにしていません。ただ、フランスではテロ行為には重罪が課せられるため、裁判所が男の容疑を認めた場合、現地法上では最大懲役30年に処される可能性もある。開会式以外にも妨害工作を企てていた可能性が大きいことから、当局は男がロシアからフランスに入って十数年に渡り接触してきた人間関係などを徹底的に洗いなおしているようです」(同)
五輪でのテロ事件と言うと思い出すのが、1972年9月5日のドイツ・ミュンヘンでの、パレスチナの過激派組織「黒い九月」のメンバー8人による選手村襲撃事件だが、この時はイスラエルの選手団11人が犠牲となった。それから52年。今回もパレスチナと戦闘が続くイスラエルは格好の標的になりかねない。さらに、選手村にはウクライナとロシアの選手団も滞在している。
「逮捕された男がいったい何の目的で、何を狙っていたのかはわかりません。ただ、FSBの関連資料が押収されたということは、この男がロシア人スパイである可能性は極めて高いと考えて間違いないでしょう」(同)
AP通信などによれば、フランス政府のダルマナン内相は、五輪に先立ち、当局が事前に選手やコーチ、ジャーナリスト、ボランティア、警備員、会場周辺の地元住民など約100万人の身元を調べたと発表。うち4355人が五輪開催中の「脅威」になる恐れがあるとして大会へのアクセスを拒否され、880人が外国の干渉につながる疑いで排除されたことが明らかになったという。
「地元紙の『ル・パリジャン』も23日、フランスの捜査当局が、南西部ジロンド県に住む18歳男を、オリンピックを狙ったテロを計画した疑いで逮捕、身柄を拘束したとの記事を掲載しています。容疑はSNS上に《大会期間中に暴力行為を実行したい》と投稿したことによるものとされますが、ただでさえ当局がピリピリしている時に、悪ふざけででは済まされないでしょうからね。この男に対しても、対テロ検察による背後関係などについての徹底調査が続いているようです」(同)
8月11日の閉会式まで16日間、選手団や関係者だけでなく、治安を守るフランス警察にとっても、熱く長い戦いが幕を開けたのである。
(灯倫太郎)