「兵士切れ」ウクライナが受刑者動員へ “肉の壁”ロシアとの「囚人戦争」最前線

 ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ウクライナでもいよいよ兵員確保が厳しい状況になってきたようだ。ウクライナのゼレンスキー大統領が、徴兵年齢上限を27歳から25歳に引き下げる法案に署名したのは今年4月のこと。ウクライナでは戒厳令に基づき、動員命令を受けた27~60歳の男性及び、18歳以上の志願兵が戦闘任務についてきたが、兵役で徴兵された者は動員の対象外になり、前線へ送ることはできなかった。今回の兵役年齢引き下げにより動員対象は広がり、推定で47万人の追加徴集が可能になったとされる。

「ただ、これはあくまでも数字上の話で、動員を恐れて国外に脱出している若者も少なくありません。米シンクタンクの調査によれば、現在、ウクライナ軍の総兵力は約100万人。うち、前線で戦っている兵士は30万人ほどだとされ、これに対しロシア軍の前線兵力は今年1月の時点で推定47万人。しかも、6月1日にはさらに30万人を追加徴集する準備をしているとの報道もあり、ウクライナとしては何がなんでも前線の兵士を確保しておきかったところ。ようやく西側からの武器支援は再開しましたが、戦闘を維持するためにはやはり人的戦闘力が欠かせません。ゼレンスキー氏は、書類偽造などによる動員逃れの取り締まりのため、病気や障害などを理由に徴兵を免れた者の再検査を義務づける法律にも署名するなど、あの手この手で兵員確保を強化しています」(外報部記者)

 とはいえ、戦争長期化を背景に各地で連日、兵士の早期帰還を求めるデモが行われるなど、国民感情には大きなきしみも出始めている。そんな中、ウクライナの最高会議が、受刑者の軍への入隊を可能にする法案を可決したことが、5月8日に明らかになったのだ。

「今回の法案は、入隊できる受刑者の条件を『刑期が残り3年未満の者に限る』としていて、2人以上の殺人、性的暴力、重大な汚職で服役している者、元政府高官らは対象外になっています。また、入隊した受刑者は恩赦で放免になるわけではなく、戦闘中は仮釈放扱いなのだとか。とはいえ、ウクライナ政府はこれまでロシア軍が受刑者を動員して最前線に投入することを徹底して批判してきたわけですから、筋が合いません。しかも、法案の文面には『入隊した受刑者には休暇が与えられず、戦争が終わるまで戦い続ける』といった旨の記述があるため、受刑者の権利擁護団体から『法案は差別的で、刑期よりも長くなる可能性がある』との猛抗議を受けていると報じられています」(同)

 実は、ウクライナ政府は侵攻が始まった2022年2月の時点で、軍事経験のある受刑者を釈放し、前線に配置すると発表していた。ゼレンスキー氏もビデオメッセージで「自身の罪を、最も戦闘の激しい前線で償うことができる。今重要なのは防衛だ。我々(国民は)全員が戦士だ」と訴えていた。

 しかし、今回は軍事経験の有無は一切問わないことから、前線で戦えるのかという疑問もあり、そうなればロシア軍が行ってきた戦闘未経験の受刑者を最前線に送る「肉の壁作戦」と何が違うのかという議論が起こることは必至だ。受刑者の権利擁護団体代表は、「これはロシアと同じ、血による贖罪だ。戦う意志のある(受刑)者は一つの部隊に入れられ、肉のように扱われる」と痛烈に批判している。

(灯倫太郎)

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