「再生工場」のヒミツが見えてきた。東京ヤクルト・小澤怜史が、チームトップに並ぶ5勝目をマークしたのは8月6日の中日戦だった。リリーフから先発に転向したのが今年6月、2020年オフ、福岡ソフトバンクから戦力外通告を受け、その後、ヤクルトに育成選手として拾われた。
その「再起のストーリー」はよく取り上げられているが、そこには野村克也氏が指揮官だったころから続いている選手再生のテクニックが隠されていた。
「20年オフ、小澤が戦力外になった時点で、ヤクルトは獲得を決めていたようです」(関係者)
ヤクルトが小澤に惹かれた理由は、直球のキレとスピード。しかし、21年シーズン終盤、小澤は現在のサイドスローに転向している。二軍首脳陣のアドバイスに従ったわけだが、同時に直球のスピードは落ちている。
「右サイドスローの投手が少なくなっていました。転向したほうが上(一軍)で投げるチャンスも広がると言われたそうです」(スポーツ紙記者)
スピードボールを捨てたことになる。これまではボールのキレで相手バッターをねじ伏せてきた。そんなピッチングスタイルを辞めて、サイドスロー投手に求められる内外角でのボールの出し入れ、コーナーのギリギリを突くコントロールも要求されるようになった。
再生工場の祖、野村時代を知る関係者がこう言う。
「野村監督は再起を目指してヤクルトに移籍してきた選手と話し合っていました。長所を伸ばすアドバイスだけではなく、なぜ、戦力外になったのか、何が足らなかったのかを自覚させました」
そのスタイルが現在の高津臣吾監督にも継承されているのだろう。
右サイドスローの先発投手はほとんど見かけなくなった。スピードとキレで1、2位を争うより、オンリーワンを。下位低迷の今季、高津監督は新しい戦力を整えつつある。
(飯山満/スポーツライター)