彼女が突然、ウクライナに口撃の矛先を向けた理由はどこにあるのか…。
毎度おなじみの強気な発言で知られる、金正恩総書記の妹・与正氏が4月1日、朝鮮中央通信を通じて談話を発表。ロシアによる侵攻が続くウクライナのゼレンスキー政権が「核保有を目指している」としたうえで、「ロシアに打ち勝つことができるという誇大妄想症にかかり、生存を脅かす核惨禍を自ら招いている」と名指しして批判したことで、その発言意図をめぐり憶測が広がっている。
北朝鮮問題に詳しいジャーナリストが解説する。
「国連の制裁を受けている北朝鮮は安保理決議上、あらゆる武器取引が禁止されています。しかし、水面下ではかねてからロシアに武器弾薬を提供、その見返りとして食糧を受け取るという物々交換の計画を進めていた。ところが、先月末、米国政府が取引を仲介しているとみられるスロバキア国籍の武器商に対して制裁を発動、取引が出来なくなってしまったのです。米財務省によれば、北朝鮮はすでにこの武器商の仲介により、今年初めに20種類以上の武器や軍需品をロシアに販売し、その対価として商業用航空機から日用雑貨品、製品の原材料などの物資を得ていたとしていますが、それが米国につぶされてしまったわけです。ただ、それが結果的に北朝鮮とロシアとの反米連帯をより強固にすることになり、北朝鮮の標的がアメリカから支援を受け続けるウクライナへ飛び火したとみられています」
さらに、ロシアの政府系メディア「ルースカヤベスナ」は、ロシアを支援するため北朝鮮が5月末までにウクライナに義勇軍を派遣する計画があり、北朝鮮の砲兵、歩兵部隊が武器と弾薬を持って投入されるといった情報も伝えており、その信憑性はともあれ、両国の関係強化が進んでいることは間違いないようだ。
そして、与正氏の演説はこう続く。「誇大妄想症にかかったウクライナには、その後の未来を見通す初歩的な意識も、その最悪の結果を処理する能力もない」。またゼレンスキー氏個人に対しても、「ゼレンスキーが米国の核兵器配備だの独自核開発などと言いつのるのは、自国と国民の運命を危機にさらしながら、自分たちの余命を維持しようとする極めて危険な政治的野望の発現である」と断罪したうえで、「口を開けば(支援国に)物乞いと請託の念仏を唱えるゼレンスキー当局は最初からロシアの相手にはならず、彼らが現在のように核妄想に執念を燃やせば、むしろロシアの核照準の鮮明なる標的になるであろう」と極めてどぎついフレーズで批判しているのだ。
「与正氏は今年1月の談話でも米国のウクライナ支援を糾弾、『われわれはロシア軍隊と人民といつも同じ塹壕に立っているであろう』とロシアとの蜜月関係を強調しています。さらに今回はロシア政府系メディアが北朝鮮義勇軍派遣を報じた後の声明ですからね、国際社会の中で孤立するなか、ロシアを積極的に支持することにより、外交的孤立や飢餓がすすむ国内経済の支援につなげたいとの思惑もあるのでしょう」(同)
与正氏の強気発言は、国際社会から隔絶された孤独の叫びだったのか。
(灯倫太郎)