ロシアによるウクライナ侵攻から1年を迎えた24日、ロシアとウクライナに対し、敵対的行為の停止や和平交渉の再開を促す12項目のプランを公表した中国の習近平政権。その狙いは中立的立場として戦争終結に貢献し、自らを世界のリーダーとして位置付けることだ。
このところ、新型コロナウイルスや偵察気球問題等々、欧米でのイメージが芳しくない習近平政権だが、一方、国内ではなかなかの人気だとか。その理由が、現在中国で放映されて大ヒットしている犯罪捜査ドラマ『狂飆』(原題)の影響だというのだ。
「物語は貧困の中で育った男がやがて犯罪組織を率いる企業トップになるものの、当局の腐敗一掃で転落していくというもので、中国上流層の犯罪が実にリアルに描かれています。放送は国営『中国中央テレビ』や動画配信ですが、いま中国では『見ていない人がいない』と言われるほどの国民的大人気で、視聴率30%超えの大ヒット作として注目を集めています」(中国ウォッチャー)
ただし実はこのドラマ、制作指導には中国公安の司法総括機構である「共産党中央政法委員会」が関わっており、腐敗を一掃していく当局の職員たちの台詞の端々に、習近平氏がかつて語った言葉などがうまく引用されているというのである。
「要は過去の腐敗を習近平氏が国家主席になったことでキレイに清算した、というプロパガンダ。ただ、おそらく相当量の事後検閲があったのでしょう、ドラマを観ているとしばしば台詞と出演者の口の動きが合わない部分もあり、制作者の苦労が見てとれます。つまり、犯罪ドラマという形にはなっていますが、実際のところは中国共産党が緻密に作った習近平体制称賛のエンターテインメントに他ならないということです」(同)
さらに、現在興行成績1位、2位を行き来する大ヒット中の映画『満江紅』『流転の地球2』にも、巧みなまでに中国愛国主義が上手くかぶせられているというのだ。
「一昨年10月、中国の国家ラジオテレビ総局が5カ年計画を発表しました。要は、芸能界のガバナンスを強化し、低俗な内容を規制強化する方針などが掲げたうえで、国を愛する芸能人を強く支援するという内容。そういうこともあり中国エンタメ業界では、愛国主義的作品を作ることが成功への近道となってしまった。また中国政府としても、今の時代に共産党の理念や革命の歴史を前面に出すことが得策でないことは理解しているので、露骨な宣伝ではなく、作品に上手く忍ばせて入れ込むという手法に変わっています。結果、『狂飆』のような政権称賛の大ヒットドラマに繋がったというわけです」(同)
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによれば「習近平政権は文化遺産広報プロジェクトを推進。自国の文化遺産にストーリーをかぶせる作業も加速させていく」とのことなので、中国エンタメ界が「愛国映画」で一色に埋め尽くされる日も近いかもしれない。
(灯倫太郎)