19年に名人を獲得し、令和初の「竜王名人」となった豊島竜王。その最大のライバルを完膚なきまでに叩きのめしている藤井三冠の強さの源は、今年6月のタイトル初防衛にあった。
「藤井三冠が棋聖戦で自信をつけたのは間違いないでしょうね。初タイトルを獲り、タイトル保持者となると、今度は待つ立場に変わり、次の防衛戦が課題となります。これまでにも、若くしてタイトルを獲っても守りきれずに失冠するケースは多くあった。藤井三冠は各棋戦で勝っているので対局に不足することはないですが、最強の挑戦者を迎えるわけですから、防衛するのは大変なこと。しかも将棋界の第一人者・渡辺明名人(37)に3連勝する完勝と言っていい内容でしたから、大きな自信になったはずです。その後、ダブルタイトル戦でも局を追うごとに内容がよくなり、王位戦第5局は完勝と言ってもいい充実ぶりでした」(屋敷九段)
11月現在、将棋界は八つのタイトルを渡辺明名人(棋王・王将)、豊島竜王、永瀬拓矢王座(29)、そして藤井三冠(王位・棋聖・叡王)で分け合う「4強時代」に突入している。
しかし、渡辺名人は対藤井戦では1勝7敗と大きく負け越し、同じく永瀬王座も11月3日の将棋日本シリーズ(JT杯)で負けて1勝7敗と藤井無双状態。さらに、今週の12日から行われる竜王戦第4局で竜王のタイトルを獲得すれば、名実ともに「藤井四冠」の序列1位となる。
もはや「藤井1強」時代の到来は目の前なのか。
今年5月の王座戦で藤井の20連勝を阻止。そして10月31日のNHK杯でも勝利し、現役棋士で数少ない対藤井戦勝ち越し(3勝1敗)を誇る深浦九段に打倒藤井の秘策を尋ねた。
「私が勝てたのはたまたまですよ。竜王戦で忙しい最中に自分が得意とする『雁木』という江戸時代からある古い作戦をぶつけたのです。豊島竜王とは全く別の戦型でしたので藤井三冠が対応できず、そのまま攻め倒したという展開でした。藤井三冠もベテランではないので、全ての戦型に対応できなかったのでしょう」
終局後、久々に机に突っ伏す藤井三冠の無念の姿がテレビで放映された。
「藤井三冠の師匠の杉本昌隆八段(52)も『藤井の怖いところは、まだまだノビシロがあるところだ』と、よく言われています。いったいどこまで伸びるのか、まだ19歳、底知れない強さです」(深浦九段)
11月5日の王将戦も制して、対豊島戦を12勝9敗にした藤井三冠。最年少四冠の先には最年少名人、前人未到の八冠制覇‥‥。藤井伝説は、まだ道半ばなのかもしれない。
*「週刊アサヒ芸能」11月18日号より