金与正氏の口調が優しくなった!?「ポエム調談話」の裏事情とは

 米韓合同軍事演習が16日に始まった。例年、両軍による軍事演習は春と夏に実施されているが、今回は新型コロナウイルス感染拡大を考慮し、実兵機動訓練は行わず、防御性のコンピューターシミュレーションによる指揮所での訓練などが中心になるという。

 これまで米韓軍事演習について、激烈な言葉で威嚇を繰り返してきた金正恩総書記の妹・金与正労働党第1副部長の、ある談話が関係者の間で波紋を呼んでいる。

 北朝鮮問題に詳しいジャーナリストが語る。

「与正氏が談話を発表したのは、今月1日のことですが、そこには《北南関係の前途をいっそう曇らす好ましくない前奏曲》《希望か、絶望か? 我々が選択をするわけではない》といった、およそ、これまでの彼女らしからぬ抒情的な表現が散見されていたのです。さらには10日に発表した談話も、批判のトーンこそ上がったものの、いつものような具体的な挑発行動に触れる言葉が見られなかった。北朝鮮の談話といえば有名な『ソウルは火の海になるだろう』など直接的な脅し文句がほとんどですから、今回の与正氏の表現は異例中の異例と言えるでしょうね」

 与正氏と言えば、韓国に住む脱北者団体が金総書記らを非難するビラを風船で飛ばした際には《南側で起きているクズどものうごめきには相応する行動を検討する》《結果に対する責任は、汚いゴミを放置した南朝鮮(韓国)当局が負う》などと、激しい言葉で韓国を非難してきた。その怒りが収まらず、南北連絡事務所を爆破するといった暴挙に出たことも記憶に新しい。そんな与正氏がなぜ、抒情的な表現を使う必要があったのか。ジャーナリストが続ける。

「北朝鮮経済はいま、経済制裁、新型コロナウイルスを防ぐための中朝国境閉鎖、今夏の干ばつ・水害と、『三重苦』にあえいでいます。食糧難のため、軍に備蓄してある米を国民に販売し始めており、来年初めまでに400万トンを放出する計画があるのとの報道もありました。7月27日に、南北通信線の復旧に応じたのも、韓国の文在寅大統領の先にいるアメリカとの対話に何とか繋げたいから。そんな中、米韓軍事演習についていつものように苛烈な言葉で罵れば、せっかく復旧させた南北通信線の糸も切れてしまうかもしれない。とはいえ、軍事演習を傍観すれば軍部や国民から『弱腰』との誹りも受けかねない。そのあたりのどっちつかずな複雑な思いが、ああいった抒情的な表現につながったのではないでしょうか」

 少なくとも与正氏の性格が優しくなった、なんて単純な話ではないようだ。

(灯倫太郎)

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