原巨人「桑田入閣」は「脱長嶋」の序章、背番号「73」を背負う意味とは?

 巨人に仰天の新春サプライズ人事が飛び出した。なんと、かつての大エースがコーチングスタッフとして原政権に電撃入閣したのだ。確執が噂された因縁の相手を呼び寄せた全権監督の思惑とは——。

 1月12日のオンライン会見で、通算173勝の球団OB・桑田真澄氏(52)の投手チーフコーチ補佐就任が発表された。異例の大物コーチ就任を猛プッシュしたのは、3年契約のラストイヤーを迎えた原辰徳監督(62)に他ならないという。スポーツ紙デスクが解説する。

「昨年12月2日に今季のコーチングスタッフを発表していましたが、年末になって山口寿一オーナー(63)に桑田氏の入閣を直談判したそうです。補佐という名称の肩書どおり、当初は予定されていない人事でした。桑田氏に近い人物にとっても寝耳に水のオファーで、目下、引き受けてしまっている講演会や野球教室などのスケジュール調整に奔走しているそうです」

 全権監督の剛腕により、実に15年ぶりに橙色のユニホームに袖を通す桑田コーチだが、両者のわだかまりを知る球界関係者は、

「桑田の現場復帰を妨げていたのは、むしろ原監督だったはず‥‥」

 と、驚きを隠せない様子だ。二人の関係性に軋轢が生じたのは、桑田コーチが巨人を退団した06年シーズンに遡る。

「1軍での出場機会に恵まれず2軍暮らしの続いたシーズン終盤に、球団公式サイト内の自身のページ上で、一方的に巨人退団を宣言。首脳陣への相談もない暴走を自身への意趣返しと捉えた第2次政権1年目の原監督はひどく憤慨していました。一方で渡邉恒雄氏(94)を含む背広組は、穏やかな語り口で聡明な桑田を評価しており、将来的にコーチやフロントに据える声も出ていた。しかし、原監督と袂を分かつ状態のまま現場復帰は不可能と言われてきたのです」(球界関係者)

 そんな折り合いの悪い仲でありながら、急転直下のオファーが飛び出したのには、悩ましいチーム事情が関係していた。

「昨年末の時点では、エース菅野智之(31)のメジャー流出を念頭に置いた先発陣の整備が急務でした。宮本和知投手チーフコーチ(56)はチームのモチベーターとして機能していますが、選手の起用センスや育成手腕に疑問符を付けられています。2軍での育成手腕を認められて杉内俊哉コーチ(40)を昇格させましたが、さらに盤石な体制を築きたかった。特に第3次政権からは、傾倒しているメジャー流の采配やスタッフを重用してきました。その流れでメジャー経験もある元エースに白羽の矢が立ったのです」(球界関係者)

 チームは2年連続リーグ優勝を果たすも、日本シリーズではソフトバンクの壁にはね返されて屈辱の8連敗。たとえ因縁の桑田コーチといえども、メジャー仕込みの頭脳を借り、そうまでして雪辱を期したい、と追いつめられていたのだ。

 とはいえ、とかく哲学のあることに関しては意志を曲げない桑田コーチの存在は、原監督にとっては爆弾も同然だろう。危ぶまれるのはシーズン中に肝を冷やすシーンが増えそうなことだ。

「今シーズンもリモート取材が主となり、桑田コーチが囲み取材で指揮官に対するネガティブなコメントをつい漏らしてしまう危険度は低い。ただし、球団や本社サイドの部長クラスの連絡先を知っているだけに、思うところがあれば直接、フロントに意見を上げてしまうかもしれません」(スポーツ紙デスク)

 チームにとっては良薬にも毒薬にもなりかねない桑田コーチの入閣。そのリスクを背負ってでも招聘に前のめりになったのは、打倒ソフトバンクばかりが理由ではない。一線を退いてもなお、影響力を誇示している超大物球団OBに対する思惑が見え隠れしているのだ。

 桑田コーチ就任会見で強調されたのは、用意された背番号「73」。自身と原監督が師匠と仰ぎ、同背番号を背負った故・藤田元司監督の存在がクローズアップされた。一方で、もう一人の師匠である長嶋茂雄終身名誉監督(84)についてはひと言も触れられることがなかった。さる球界OBが複雑な関係を指摘する。

「桑田コーチ就任の裏には、ミスターと原監督の決別の意味が込められている。事あるごとに、巨人はミスターの顔を立ててきた。それが時には、横やりとして原監督を妨害してきたことがあった。とりわけ、14年にキューバの至宝と呼ばれたセペダの獲得はミスターの肝煎りだった。監督時代から20年にわたって、キューバに通ってラインを築いた末の獲得だったからね。だからセペダが日本にアジャストできなくても、しばらく使わざるをえなかった。この頃からミスター絡みの案件には辟易していたそうだ」

 長嶋監督が築いたキューバとのラインは、巨人を踏み台に亡命する選手が相次いだため断絶。むしろ、デスパイネ、グラシアル、モイネロら、有能なキューバ人がソフトバンクに集結する一助になってしまった。

 さらに、原監督がミスターを球団から遠ざけたい理由は別にもあるという。

「15年に『原降ろし』に動いた連中の一掃です。当時、高橋由伸氏(45)を担いだ首謀者の多くが粛清されましたが、球団内には残党がいる。中でも、山口オーナーに取り入って球団の役職をあてがわれた人物を警戒しているようです。球場でエスコート役を買って出るなど、ミスターを表裏でサポートする右腕のような存在で、いまだに球団に籍を置いています。藤田さんをヨイショすることには、ミスターの威光を利用する連中への強い牽制の意味が込められている」(球界関係者)

 昨年、通算監督勝利数でもミスターはおろか川上哲治氏まで抜き去り、有無を言わせぬ権力を手にしたにもかかわらず、巨人ではいつまでたっても特別な存在なのがミスター。自身の影響力を行使できない原監督の胸の内には、遅々として進まない球界再編への忸怩たる思いもにじむという。

「声高に主張しているセ・リーグのDH制導入を巡る議論も他球団とは温度差がある。支配下枠の撤廃や補強期限についても、原監督の主張だけが独り歩きしている状態。その背景には、原監督ないし巨人の、球界での発言力低下も影響している。球界の覇者に返り咲くためにも、ミスターの存在感を薄め、自分の力をアピールする思惑があるようです」(球界関係者)

「脱長嶋」こそ、原監督が進める球界再編のプロローグなのだ。

※「週刊アサヒ芸能」1月28日号より

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