エイベックスの象徴がなくなる? 東京・南青山に2017年に新築・開業したばかりの「エイベックスビル」を売却する方針であることが、11月10日付の「東洋経済オンライン」で報じられた。記事によれば、本社ビル売却後も同社は引き続き、賃貸で入居し続けるという。エイベックスでは11月5日に100人程度の希望退職募集を発表したばかりで、音楽業界の雄である同社の先行きに不透明感を抱いた人も多いようだ。
「11月5日に発表した4〜9月の決算では売上高が前年同期比44%減となり、純損失は33億円弱にのぼりました。その大きな要因がコロナ禍にあることは明らか。このコロナ禍がいつ収束するのかはまったく見通しが立たず、エイベックスの将来に不安を抱くのももっともでしょう。ただ今回の自社ビル売却は決して、同社の危機を示すものではないようです」(週刊誌記者)
希望退職や自社ビル売却を巡って、音楽CDなどのパッケージ商品が売れなくなっている現状を指摘する声は数多い。浜崎あゆみなどかつては一世を風靡した所属アーティストにも往時の勢いはなく、経営状況に危機感を抱く声も少なくないようだ。だがそういった見方は現在のエイベックスを見誤っているというのである。
「同社の根幹は今も昔も音楽事業ですが、その中身が大きく変わっています。かつてCDでミリオンセラーを連発していた頃は『音楽パッケージ』の売り上げが大きかったものの、現在では『ライブ事業』が最大の売り上げを誇っており、昨年度の第二四半期決算では164億円の売上高を計上。音楽パッケージの94億円に大きな差をつけていました。一方で今後伸びる一方の音楽配信はすでに55億円を突破し、マーチャンダイジング(物販)も40億円超え。いまや音楽事業における音楽パッケージの割合は2割ほどに過ぎないのです」(前出・週刊誌記者)
今年はライブがほとんど開催できず、ライブ事業の売上高は前年同期比91%減の14億円ほどに激減。その一方で音楽事業全体の製造原価も大きく削減されており、同事業の営業損益は前年同期比で約4500万円の損失増とほとんど横ばいだったのである。
「今後、コロナ禍が克服できてライブ事業が復活すれば、音楽事業では大幅な好転が期待できます。ただ音楽パッケージが縮小し続けるのは不可避であり、全体的には縮小均衡に向かう可能性も高い。その状況で高収益を確保するには、今の内からリストラを断行するのがコロナ禍のなかでの最善手でしょう。ライブ事業がメインであれば都内の一等地に巨大な自社ビルを構える必要性も薄れますし、新築時に借り入れた72億円の長期借入金をビル売却で返済すれば、バランスシート上も身軽になる。つまりエイベックスの希望退職や自社ビル売却は、アフターコロナを見据えた先手と見るべき。自社ビル売却の報道が出てもマーケットでは楽観視され、事実、株価に大きな変動はありません」(前出・週刊誌記者)
ともあれ音楽ファンとしては、早期の音楽市場回復を祈願したいところだろう。
(北野大知)