トランプ大統領は黙認!? 米兵の首に懸賞金をかけた「ロシア暗殺部隊」の正体

 11月の米大統領選に向け苦戦が伝えられるトランプ氏に、また大きな火種が生まれている——。 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は6月30日、政府筋からの情報として、ロシア軍情報機関の銀行口座から、アフガニスタンの反政府勢力タリバンの関与が疑われる銀行口座に、多額の資金が送金されていたと報道。記事によれば、当局はすでに資金の分配を担っていた人物を含め、ロシアの秘密工作に関与した多数のアフガン人を特定。送金に関する電子データを傍受、解析したところ、この金はアフガンでの米兵殺害に対する懸賞金だった可能性が高く、それを裏付ける証拠となると伝えた。

 しかしこの報道に対し、トランプ氏は「説明を受けていない」とツイッターに投稿。国家情報長官やホワイトハウスの報道担当官も口裏を合わせるように報道を否定。ところが、7月に入ると各メディアが一斉に「報奨金問題」を取り上げたことで、当初「おそらくでっち上げの作り話」と、意にも介さなかったトランプ氏も、その対応をめぐり窮地の立場に立たされることになったのである。米国在住のジャーナリストはこう語る。

「昨年、アフガニスタンの戦闘で死亡した米兵は20名ですが、米国の情報機関はイスラム系武装組織メンバーの身柄を拘束し、早い段階から、ロシア軍の諜報機関が米国をはじめ北大西洋条約機構(NATO)加盟国の兵士を殺害した場合に報奨金を支払うよう促している、という情報をつかんで、今年3月の米国家安全保障会議(NSC)でホワイトハウスにも情報をあげていたというんです。ところが、トランプ氏はロシアに抗議することもなく、停止の要求も求めなかった。というのも、2月末にタリバンと和平合意し、米軍の完全撤収に舵を切っていたトランプ政権にとって、仮にロシアの工作活動が公になれば米軍撤収に支障が生じることだけは間違いない。そのため、事実がどうであれ、今は事を荒立てたくない。トランプ政権がロシアへの対応を見送った本音はそこにあると言われています」

 今回の相次ぐメディアへのリークは、ホワイトハウスのそんな「逃げ腰」姿勢に業を煮やした複数の米情報機関の当局者によるものと言われている。

 報道が事実なら、米兵の首に「懸賞金」をかけている組織とは、いかなるものか。

「それが、ロシア超秘密機関の『29155部隊』です」というのはロシアの諜報機関に詳しい軍事ジャーナリストだ。同氏が続ける。

「ロシアにはロシア連邦保安庁(FSB)のほか、海外での破壊工作を担うロシア軍参謀本部情報総局(GRU)という諜報機関があるんですが、その中で殺人や暗殺を専門とする超極秘機関が『29155部隊』と呼ばれる、約20人の秘密破壊工作チームなんです。その中心になっているのが、“殺しのライセンス”を持つと言われるデニス・セルゲイエフ少将。彼らは2015年にブルガリアで起きた武器商人毒殺計画(未遂)や、2018年にイギリスで元GRU大佐を軍用神経剤『ノビチョク』によって暗殺未遂事件などに関与したとされていますが、その実体はよく分かっていません。ただ、アフガンでの『懸賞金』工作に、この29155部隊が関与しているとしたら、セルゲイエフ少将が指示を出している可能性は極めて高いと言えるでしょう」

 ロシアでは7月1日、国民投票が行われ、プーチン大統領が2036年まで続投可能となる「終身大統領」への道を拓いた。それはすなわちロシア諜報機関による破壊工作のさらなる広がりを示唆することになるが、一部では浅からぬ仲、と伝えられるトランプ氏とプーチン氏。大統領選を前に燻りはじめた火種に、全米の関心が集まっている。

(灯倫太郎)

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