──次に日本を取り囲むアジア諸国はどうでしょう。日本と緊張状態が続く中国が一番の気がかりです。
その中国が今、急激に日本に歩み寄ってきているのをご存じでしょうか。昨年11月末に「短期ビザの免除」の再開を決めました。コロナ後も回復していなかったわけですが、これにより日本のビジネスパーソンなどがビザなしで中国に30日間滞在できることになります。あまり報道されていませんが、韓国との間でも行っています。この背後には中国経済の急速な落ち込みがあります。経済を立て直すために日本や韓国との関係を改善しようとしているのです。
──中国は背に腹は代えられない状況なんですね。
ええ、日本産水産物の輸入禁止に関しても中国はこれまでは福島原発の処理水を一方的に、危険だから輸入できないと言っていた。ですが、ここに来て問題なしとするIAEA(国際原子力機関)の調査を受け、中国としても調べてみたら確かに危険なものではないと、海産物の輸入も再開するでしょう。
──これはトランプの大統領就任の影響もあるんでしょうか?
はい。フランスの高級ブランド複合企業・LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の売り上げが落ちている。これは中国で爆買いが止まったためなんです。それぐらい中国は今、経済がひどい状態なんですよ。もう何としても経済を立て直したい。そのためには日本の投資が必要だ。習近平は必死になってるわけです。
──台湾有事に関してはどうでしょう?
トランプはこれまで一度も台湾有事と言ったことがありません。もし台湾が中国に攻撃されたらどうするかと聞かれ、「そんなことがあったら、中国に200%の関税をかける」と発言しています。つまり、お金で解決する。アメリカ軍を派兵するとは一言も言ってないです。
──それは中国にしてみれば、台湾を獲りに行ってもいいんだということになりせんか?
なりかねないわけですが、もしも中国が台湾を攻撃すれば、台湾で大勢の人たちが死ぬことになる。そもそも、中国は、台湾は自国の領土と言ってるわけです。自国の領土の自国の国民をたくさん殺していいのかという話になります。大勢の台湾の人を殺してから、台湾を占領すれば、台湾の人たちから徹底的な抵抗運動を受けることになる。だから武力を使わないで、台湾が中国の懐に転がり込んでくるのが一番いいやり方ですよね。これが「孫子の兵法」というものです。今、中国は台湾に圧力をかけたり、選挙にも介入したりしています。それによって、台湾の国民党が次に政権を取り、中国と仲よくさせるよう仕向けなければいけない。こうして、攻撃せずに台湾を自分のものにしようと考えてるはずです。
──ひとまずは、ホッとしました。
(つづく)
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。