大手脱毛サロン、債権者が破産申し立て…業界が逆風にさらされる悪循環の背景

 数万人規模の会員数を誇る脱毛サロンが、窮地に追い込まれる事態が後を絶たない。

 5月15日、大手脱毛サロン「ミュゼプラチナム」の従業員や債権者などが、同サロンを運営するMPH(株)に対し破産申し立て準備に入ったと、大手メディアが一斉に報じた。

 同社は2024年9月に前身企業から脱毛サロン事業を引き継いだが、分割前の法人が残した社会保険料滞納に伴う差押もあって、その後の資金調達がうまくいかず、25年3月には全店舗を一時休業すると発表。従業員への給料遅配も表面化し、施術料を前払いした利用者らが返金を求めていることが大々的に報道されていた。

 東京商工リサーチによれば、24年度の脱毛サロンの倒産件数は16件。これは前年比の45.4%増で、3年連続で最多を更新したことが明らかになったというのだが、

「脱毛サロンの倒産が増え始めたのは2022年頃からで、24年度には約10万人の利用者が影響を受けた『アリシアクリニック』が倒産。ほかにも約2万人の会員を持つ『トイトイトイクリニック』運営会社が倒産するなど、推定すると30万人以上の利用者が被害にあっている可能性も否定できないといいます。具体的な被害内容は支払済の未施術分が返金されないといったもので、つまり大金を払い込んだものの、肝心の施術が受けられないという状況に陥ってるというわけなんです」(社会部記者)

 美容意識の高まりとともに、ここ数年で急成長を遂げてきた脱毛サロン業界。しかし、一方では「柳の下にいる2匹目のドジョウ」を狙い競争が激化。美容業界全体だけでなく、チェーン展開する接骨院・整体院も脱毛サロン・サービスに新規参入し、既存サロン間の価格競争が激しさを増していたという。美容業界に詳しいジャーナリストが解説する。

「美容のなかでも基本、脱毛サービスというのは大きな差がつきにくい。そのため、どうしても価格で勝負するしかないんです。ただ、店舗の賃貸料や人件費等は固定化したままなので、単価を下げれば当然、新規顧客を増やし続けなければ経営は成り立たない。結果、有名人を使った広告を打つなど、あの手この手で宣伝するも、顧客が獲得できなければ経営が悪化する…。そんな悪循環に陥ってしまうことになるんです」

 さらに、もうひとつの原因が顧客ニーズの変化にあり、特に新型コロナウイルス感染拡大時には、サロン形式の店が消費者から敬遠され、替わってセルフケアや家庭用脱毛器の性能が向上。脱毛方法が多様化し、顧客の選択肢が広がってしまったことも大きな要因だとされている。

「加えて消費者が脱毛したいという意識も季節によって異なるため、サロンの売上も季節変動が大きく、それが不安定要素になり銀行借入が難しいという実情がある。だからこそ、大手は多額の広告費をかけ、前受金を集めて事業拡大を計ってきたのですが、そこに低価格帯サロンが続々参入。結果、所帯を広げすぎたサロンや運営会社はにっちもさっちもいかなくなり、倒産を選ぶしか道がなくなってしまうんです」(同)

 特定商取引法(特商法)上、一応クーリングオフや中途解約制度はあるものの、前受金の保全措置自体が義務化されていないため、倒産すれば会員が前払いした施術代の返金が困難になるケースが大半だという。

 セルフケアや家庭用脱毛器の性能向上でサロン離れが加速する中、業界全体が存続の危機に瀕しているという脱毛サロン業界。今後の行方は…。

(灯倫太郎)

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