健康宅配チェックシート〈甲状腺機能低下症〉いしだあゆみさんの命を奪った悩ましい病気の兆候とは

 寒暖差や気圧の変動で、体調を崩しやすい季節だからこそ要チェック! 中高年世代が抱えがちな倦怠感や免疫力の低下を、単なる老化現象で片づけてはならない。実は甲状腺が変調を来しているサインかもしれないのだ。手を打たずにいると悪化の一途をたどるのみで‥‥。

 喉仏の下にあるホルモン分泌器官を気に留めたことはあるだろうか? 蝶が羽を広げたような形で、重さは15gほど。これを甲状腺と呼ぶ。東京都にある「豊洲内科・糖尿病/形成・美容外科クリニック」の澤口達也院長が解説する。

「体の成長や臓器の働きに欠かせない、甲状腺ホルモンを分泌しています。体全体の新陳代謝を促すとともに自律神経を刺激し、心臓や消化管などの内臓や体温を調整する役割を担っています」

 甲状腺が異常を来すと、体に不調が現れるようになる。一番有名なのは「バセドー病(甲状腺機能亢進症)」だろう。

「分泌される甲状腺ホルモンの量が多くなり、体重減少や脈が速くなる頻拍の症状が現れます。体が火照ったり、汗をかきやすくなったり、手が震えることもあります。免疫に異常が生じて、みずからの甲状腺を刺激する抗体が体内で作られるのが原因です。作られた抗体が甲状腺を刺激することで、甲状腺ホルモンの過剰分泌が起こります。代謝がエスカレートするため、疲れやすくもなる。慢性疾患として、長期間の治療と管理が必要となります」

 その逆の自覚症状が現れてしまうのが、今回取り上げる「甲状腺機能低下症」。3月11日に鬼籍に入った、歌手・いしだあゆみさんの死因として公表された疾患である。

「甲状腺ホルモンが低下した状態です。よく現れる症状の一つが疲労感や倦怠感。代謝が低下することでエネルギー不足に陥ってしまうのが原因です。放っておくと、体内の物質や水分を代謝できずに溜め込むことになります。すると、顔、まぶた、足など全身のあらゆる部位に『粘液水腫』というむくみが生じやすくなる。圧迫してもへこまないのが特徴です。顔全体が腫れぼったくなるので表情に乏しくなる。他人からもどこかボーッとした印象を持たれてしまうでしょう」

 体に蓄積されるのは水分だけではない。悩ましいことに脂肪もつきやすくなるようで、

「基礎代謝が下がることで、摂取カロリーが消費されづらくなります。生活習慣病から起こる肥満の場合は食べすぎや運動不足が主な原因になりますが、そのような生活背景がなくとも体重が増えてしまいます。血液検査でコレステロール高値を指摘され、来院後に甲状腺機能低下症と診断されるケースも少なくありません。少食なのに体重が増えてしまう人は、甲状腺の異常を視野に入れたほうがいいかもしれません」

 寒さに弱くなった自覚がある場合も注意が必要で、

「基礎体温が下がってしまい、寒がりになります。ひどい場合は平熱が34度~35度台になることも。ところが、人間は年齢を重ねると代謝機能や体温調節機能が衰えてしまうもの。そのため、つい老化と早合点してスルーしがちなのです」

 ひどい冷え性の正体は甲状腺の異常かもしれないのだ。

 寒さついでに、乾燥肌にも頭を抱えることになる。

「皮膚の新陳代謝が低下する影響です。とりわけ、かかとやヒジがカサカサになりやすい。刺激にも弱くなってしまい、湿疹や炎症によるかゆみが生じることもあります。と同時に、爪の成長速度が遅くなるケースもあります。薄くて割れやすくなるのも特徴です」

 代謝の変化はさまざまな臓器にも弊害をもたらす。

「便秘になりやすくなります。こちらも消化管の新陳代謝が低下してしまうからです。逆にバセドー病の場合は、腸の働きが活発になるだけに1日の排便回数が増えたり、軟便・下痢になったりすることもあります」

 生命の危機に直結するのが心拍数の減少だ。心臓を刺激する作用が低下することで、脈拍が遅くなってしまうのだ。

「ポンプ機能が低下し、十分な血液が心臓に届かなくなり負担が増加。また、甲状腺ホルモンが不足することで血管が弛緩しづらくなり、高血圧が引き起こされてしまうので、心不全になるリスクが高くなります。動脈硬化が進行することで、狭心症や心筋梗塞にもかかりやすくなるのです」

 日頃から、もの忘れが増えていないか気を配ることも必要だ。

「代謝の低下は脳の機能低下までもたらしてしまいます。記憶障害や認知機能にまで支障をきたしてしまう。倦怠感も相まって、うつ病のような症状が出ることもあります」

 もちろん、まさに震源地の喉回りにも変調が現れる。

「喉仏の下あたりが腫れることがあります。とりわけ、甲状腺機能低下症の原因の一つでもある『橋本病(慢性甲状腺炎)』の場合は、甲状腺がやや硬く腫れてしまいます。食べ物を飲み込むのにはあまり影響が出ることは少ないですが、『反回神経』という脳から声帯を動かす指令を送る神経が通っているので、声がかれるなどの嗄声症状が現れることもあります。徐々に大きくなった甲状腺のせいで突然、声が出しにくくなります」

 過剰に海藻を食べすぎたり、うがい薬を使用したりするのはNGで、

「ヨウ素の摂りすぎで、甲状腺の働きを弱めてしまう可能性があります」

 男性よりも女性がかかりやすい疾患だが、その原因はハッキリとしていない。

「男女比で言うならば、1:20ほど。リウマチや膠原病と同じく、自己免疫疾患は中年以上の女性に多い特徴があるのです。基本的に甲状腺機能低下症の治療は、内服薬によって必要なホルモンを補うもの。治療をすることで疾患のない人とほぼ同じ生活を送ることができます」

 無用なやせ我慢は体に毒。疲労が抜けない原因は甲状腺の異常を疑うべし!

【「甲状腺機能低下症」セルフチェックシート】

以下の項目のいずれか1項目でも当てはまれば医療機関へGO!

・倦怠感や疲労感を感じる日が増えた
・むくみが生じてきた
・少食なのに体重が増えた
・寒さに弱くなった
・乾燥肌が気になる
・便秘に悩んでいる
・脈拍が遅くなった気がする(目安として60回/分未満)
・最近、物忘れが増えた/気持ちが落ち込んでいる
・喉仏の下あたりが腫れている
・ある日突然、声がかれてしまった
・抜け毛が増えた
・月経異常がある

※動脈硬化因子(高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満)がないのに、上記の症状が一過性でも現れる場合は可能性大!
※上記の症状は過呼吸を起こす状態(カラオケ、笛を吹く、激しい運動など)で起こりやすい

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