西成・あいりん地区も襲う「米価高騰」の現実(3)歯を潰されて生身で焼かれ

 筆者は、かつて「ドーム」と呼ばれてヤクザ組織が開帳していた隠れ家的な賭博場があったという三角公園、ドヤ街にも足を向け、実際に1泊した。

 先にも触れたように、あいりん労働福祉センターや三角公園にはバリケードが設けられている。結果、立ち入り禁止になった今、三角公園の賭場兼禁止薬物販売所は解体されたようだ。

 ところが、今は場所を変え、ドヤの1室で違反薬物の「テルモちゃん売り(粉末を直接溶かし、買い手本人に直接打つ売り方)」や「ドヤチンチロリン」が行われているというのだ。

 そんな事前情報が頭にあったせいか、まるで連れ込み宿のような施設の1階でテレビを見ている人たちの目つきや様子を目の当たりにして、素性を疑ってかかり、肝を冷やしたものである。すぐに部屋へと引きこもった。

 違法行為は姿をくらましただけで、逆に警察の目が届かないという皮肉な結果に陥っているのかもしれない。

「ヤクザは地下に潜って、今でも裏街道を肩で風を切りながら闊歩し、身元、戸籍の売買をしているって。最近では自分の身元を売った上で歯を潰されて、生身で焼かれて殺され、その身元を他人に持っていかれるということがあるらしい。闇は常に西成に潜んでいますよ‥‥」(地元関係者)

 聞けば、その被害者であるはずの人は人生を悲観して、みずからその役を買って出ている節すらあるという。歯を潰すのは、死体がその人だとバレないようにするためだが、加害者はコトを起こす前に甲類焼酎3リットルを被害者に飲ませて酩酊させ、フラフラで感覚がない状態のまま死に至らしめているのだとか‥‥。その後、亡くなった被害者の生活保護費もそのまま加害者サイドに渡り続けるというのである。

 今でも西成には、全国から事情を抱えた人々が集ってくるイメージがある。とある路上生活者が、ワンカップを片手に話す。

「アルコール中毒者が多く、人生を失敗した者の吹き溜まりが西成や。DVなんかで家族を失ったヤツ、中には元受刑者もいる。でも、今も昔もあいりんは変わってへんよ。俺らみたいな西成の住人はかつての1万4000人から5〜6000人くらいにまで落ち込んだのに、そのうち生活保護受給者は3分の1から半数にまで増えたというのが現状やね」

 日雇い労働者同士の揉め事は枚挙に暇がなく、その原因は「盗み酒」「段ボールハウスの場所の占拠」「チンチロリンの金銭トラブル」など様々だという。

 万博を前に、彼らは大阪市から一掃されてしまうのか─。

 筆者はルポの最後に、待望だったキンちゃんの大阪名物・かすうどんをいただいた。その温かさ、うまさには、先行き見えない街への不安を忘れて飲み込まれてしまいそうだった。

 今後の西成についてキンちゃんに聞いてみた。

「わからんねえ。暴力団についての頂上作戦があったあと、あいりんの労働福祉センターは名称を変えて、露店はなくなり、あべのハルカスや星野リゾートのホテルが建って、インバウンド人気で街の一部は様変わりした」

 遠くを見つめながらもの悲しくつぶやくと、こう続けた。

「昔はコンビニのトイレにポンプ(注射器)が当たり前のように落ちてた、この地域がどう変化を遂げるのやら。これからどうなるかは、神のみぞ知るという感じやわ」

 西成の現状を目の当たりにした筆者は、人生の悪路に佇む人々の闇を垣間見た思いだ。それでも、そんな逆境になんとか耐えている人々にエールを送りたい。西成に幸あれ。

フリーライター・丸野裕行

*週刊アサヒ芸能3月13日号掲載

※写真は、許可なしで立ち入ってはいけない三角公園内にたむろする人たち

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