日本最大のドヤ街西成。あいりん地区、釜ヶ崎とも呼ばれる、日雇い労働者の街だ。
この街には、ここ数年で大きな変化があった。今回は、千日前で「ライブシアター なんば白鯨」など複数のライブハウスを経営する、西成を愛するB・カシワギさんに、昨今の西成事情を教えてもらった。
「ここのところ、街をどんどん開発していこう!! という動きがありました。東京オリンピック、大阪万博と続きますし、最低でも10年は衰退はないだろうという想定で進んでいたんだと思います」
昔はテレビなどのマスメディアでは、西成の情報はほとんど流れなかったが、最近では頻繁に紹介された。結果、多くの若者が流入することになった。
「昔は立ち食いのホルモン焼き屋さんは地元の人しか食べなかったけど、最近では土日には行列ができています。ユーチューバーが訪れることも多いです。ただ、そういう動きを嫌う、地元のお店のオッチャン、オバチャンもいますが……」
ここ数年で100軒ほどのホテルが新たに建てられたという。
そして星野リゾートのリゾートホテルも建てられることになった。
逆に、古くからの西成のシンボルである、西成労働福祉センターのビルは閉鎖されることになった。西成内にある公園では、野宿生活をする人の数も徐々に減っていた。
まさに西成は変わり始めていた。
しかし、そんな折にコロナ禍が起こった。
「観光客は99%減になりました。とんでもないダメージですね。建設が途中でストップしてしまったホテルやドラッグストアもあります。ガンガン潰れていっていますね」
西成では毎年開かれている夏祭りも、今年はコロナ禍を理由に開催されなかった(ちなみに昨年も台風で開催されなかった)。
西成だけではなく、お隣の通天閣のある新世界でも店舗が潰れているという。
まさに景気に急ブレーキがかかる形になってしまった。唯一の救いは、西成内でパンデミックは発生していないことだった。
「ただ、西成はいまだに赤痢や結核が流行る地域です。オッチャンたちはちゃんとマスクしてるかなあ? と思って、夏場に様子を見に行ったんです。そうしたら、オッチャンたち上半身ハダカでフラフラ歩いてました。『ああ、マスクとかそれ以前の話だった』と気が付きました(笑)」
結局、西成は時計の針が巻き戻ってしまった形になった。
実際、街を歩いてみたのだが、ちょっと人が少ないかな? という程度であまり変化は見られなかった。
もちろんインバウンド向けの商売はいまだにストップがかかってしまっている。また逆に、西成労働福祉センターは建物の周りでの座り込みが功を奏したのか、未だに取り壊されずに健在だ。
「僕は現在の西成が好きなので、変わらなかったのは少しだけ嬉しいです。ただ、経済的にはかなり厳しい状況が続くのは目に見えています。そんな中、一筋の光明が見えるのは、大阪の若者はじめみんなが、『よし大阪万博、俺らで成功させたんで!!』って気持ちになっているとこだと思います。あの独特な、大阪万博ロゴが決まってから、ますます盛り上がっていますね!!」
今後もコロナ禍の厳しい状況が続くが、西成はそういう逆境にはとても強い街だ。きっと乗り越えることだろう。
(写真・文/村田らむ)