米中貿易戦争が続く中、アメリカ国内からは長引く香港デモに擁護の声が上がる一方、中国の反発も食らい、その板挟みに合って対応を誤るといったケースが、NBAバスケットボール、ゲーム大手のBlizzard、アップルなどで相次いでいる。今やGDP世界第2位の中国にソッポを向かれては国際的な経済活動は成り立たないのだが、上記の3つのケースは予想もできないところかららハレーションを招いたという点で一致している。
そして同じ轍を新たに踏んでしまったのが、あのクリスチャン・ディオールだ。ディオールが上海の大学で行った事業発表の際に用いられた中国の地図に台湾が描かれていなかった。そこに作為があったかどうかはともかく、ディオールの微博(ウェイボー)アカウントで“報告”されてしまったのだから、もうジ・エンドだ。
「『ああ、またか』という思いです。というのも、昨年11月にドルチェ&ガッバーナがやはり上海で行われたイベントで、アジア人女性が箸でピザを食べようとして悪戦苦闘している動画を流したところ、『人種差別的だ!』と炎上、大問題となったばかりですからね。ドルガバではこの時に起こった不買運動が尾を引いて、世界全体では好調な売り上げを示す中、唯一アジア・太平洋市場だけがマイナス成長に落ち込んでいます」(中国事情に詳しいジャーナリスト)
共産党政権で、かつ、覇権主義的な膨張姿勢なので、中国は内外に様々なタブーが存在する。しかも、「ついうっかり」では許してくれないからこれまた厄介きわまりない。
逆にこんなこともあった。10月15日までにベトナム最大の映画館チェーンが、米中企業合作のアニメ映画『アボミナブル』の上映を中止した。同作では、南シナ海の地図に中国が主張する領有圏が描かれていたのだ。今回はベトナムでの話だが、これも中国の覇権主義的な膨張路線がもたらしたものと言えなくもない。いわゆる南沙諸島問題で、中国は南シナ海の海域に存在する暗礁を埋め立てて人工島を建設(アメリカ海軍は「砂の長城」と呼ぶ)、ベトナムやフィリピンなどと以前からモメていたからだ。
当の中国も、一部のアメリカ映画を拒否している。監督がクエンティン・タランティーノで主演、レオナルド・ディカプリオという豪華人気者がコンビを組んで、カンヌ国際映画祭のパルム・ドールにもノミネートされた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』だが、当初は中国当局が承認していた10月25日からの上映を、直前の18日になって急遽、撤回したのだ。当局は中止理由については説明していないという。
「一部報道によれば、劇中で描かれるブルース・リーの描写について、リーの家族から抗議があったためとされているようですが、タランティーノについては、2012年にも『ジャンゴ 繋がれざる者』がやはり公開直前になって取りやめになった前歴がありますからね。タランティーノの作風を考えれば、中国共産党とどう考えてもなじまないでしょ。別の例ですが、ダライ・ラマのチベットでの動乱を描いた『セブン・イヤーズ・イン・チベット』では、主演のブラッド・ピットに対して無期限の中国への入国禁止にしたというケースもありました」(同前)
こんな調子では、同じようなトラブルが止むことはなさそうだ。
(猫間滋)