なぜだか、下痢や血便が毎日続く。「過敏性腸症候群だしな…」「出血もいつもの切れ痔によるものだろう」と「正常性バイアス」を発動させるのは言語道断! かの総理も苦しめた、国指定の難病に侵されているかもしれないのだ。
小腸で吸収された栄養素の残りカスから糞便を作り、筋肉の蠕ぜん動どう運動によって体外へと排泄する約1.6mの臓器。まさに肛門に中継する消化器官の“セットアッパー”たる大腸に、過剰な免疫反応による炎症が生じてしまう状態を「潰瘍性大腸炎」と呼ぶ。
茨城県つくば市にある「筑波胃腸病院」の鈴木隆二理事長が解説する。
「免疫細胞が大腸の細胞を攻撃してしまい、粘膜にびらんや潰瘍ができます。ひとたび発症してしまうと、下痢や血便などの症状が出る『再燃』と症状のない『寛解』を繰り返して、完全に治ることはありません。そのため、『再燃』させないことが治療をする目的となります」
安倍晋三元総理を2度も退陣させた、国が指定する難病の1つである。主たる原因は明らかになっていない。
「遺伝的な素因やストレスが悪影響を及ぼしているとされていますが、疾患発生までのメカニズムははっきりしていません」
初期症状として現れやすいのが「血便」だ。それも赤黒い色味をしているという。
「さながら苺ジャムのようなドロッとしたもの。いわゆる『タール便』のような胃酸に血が混ざった真っ黒の便とは大きく異なります。どちらかといえば、切れ痔や生理による出血と勘違いしてしまう可能性が高いでしょう。ただし、痔による出血の場合は鮮やかな赤色となるので、判別は難しくないかと」
本格的に病状が進んでいくと「腹痛」にも苦しめられることになる。
「最初は下腹部に痛みを覚えるケースが多い。というのも、この病気はお尻の直腸粘膜を起点に炎症範囲が広がっていく特徴があります。病変の範囲が直腸に限られる『直腸炎型』や結腸にも現れる『左側大腸炎型』だと、下腹部全体ないし左側の下腹部だけが痛くなります。そこから大腸全体に広がってしまう病変が起こると『全大腸炎型』と大別される。ここまで炎症が広がると、腹部全体に痛みが生じてしまうことも」
もちろん、炎症による体への負担は甚大。慢性的な疲労感に悩まされるケースも少なくない。
「ダラダラと大腸が炎症した状態が続くのと、わずかずつでも出血をしていることによる貧血も、影響しているでしょう。そこに、突然かつ緊急に排便に行きたくなる『便意切迫感』も負担として加わります。会議中や電車での移動中など、いつ何時でも便意に悩まされる心労も無視できません」
誰もが経験したことのある「冷や汗タイム」が常に隣り合わせなのだ。
■「免疫異常」が別の難病を引き起こす恐怖
もっとも、便意に悩まされながらも「便秘」にも頭を抱えることになる。
「腸管が炎症によって狭窄してしまうと、便が正常に排泄されづらくなります。お腹が痛くなってトイレに駆け込んでもほとんど便が出ない『しぶり腹』という症状が続きます。一方で、血はダラダラと流れ続けるので、便の代わりにドロッとした粘液だけが少量出てくるのです。それを1日に10回は繰り返します。ひどいと20回以上も、もよおしてしまうことも」
時には外見にまで症状が現れることもあるようで、
「代表的なのは肛門外にシミができる症状。ポコポコ移動しては消えていくもので、ステロイドを塗ることで治ります。ほとんどの患者さんが気にしないレベルのもので、専門医でないと見逃してしまうかも。シミの原因として自己免疫の関与があるのでしょうが、はっきりとした因果関係はわかっていません」
同様に、大腸と直接的なつながりのないパーツにも合併症が現れる。
「目に強い痛みが生じたり、まぶしさを感じたりします。これは眼球の内側にある『虹彩』『毛様体』『脈絡膜』の3つの組織を総称する『ぶどう膜』の炎症が影響しています。また、『アフタ性口内炎』やヒザや足首などの関節に痛みが生じることも発症頻度は高い」
免疫異常に関連して、国が指定する別の難病を引き起こすと非常に厄介で、
「『強直性脊椎炎』という、首から腰にかけての背骨や骨盤を中心に炎症を起こしてしまう疾患を合わせて発症してしまうことも想定に入れなくてはなりません。『強直』の名前の通り、骨と骨が癒着して、体が動かしにくくなってしまいます。また、炎症が胆管に広がる『原発性硬化性胆管炎』を発症してしまうことも。胆管が細くなり胆汁が流れにくくなることで『肝硬変』や『肝不全』に至るリスクをはらんでいます」
現在、日本国内には1000人に1人程度の患者がいると推定されている。もしも症状が現れたのならば、対症療法で「寛解」をキープすることが肝要となる。
「大腸の炎症を抑える、免疫抑制剤の投与が基本となります。食生活では、高脂質の料理や刺激の強い飲み物は厳禁。コーヒーやアルコールも控えるべきでしょう。そして、自律神経の乱れは一番の敵となります。きちんと朝起きて、夜更かしをしない生活を心がけてください」
少しでも心当たりがある場合には、医療機関で大腸カメラを受診するべし!
【「潰瘍性大腸炎」チェックシート⑪】
セルフチェックで6点以上は近くの医療機関へGO!
①慢性的に下痢をしている(過敏性腸症候群を含む)1点
②1日に排便回数が5回以上 1点
③体重が減少気味である 1点
④慢性的に疲労感がある 1点
⑤頻繁に腹痛でトイレに駆け込んでいる 1点
⑥お腹が痛いのに便が出ない 2点
⑦いつも排便が細い 2点
⑧何だか視界がまぶしい 2点
⑨口内炎ができやすい体質だ 2点
⑩骨盤や背骨に違和感がある 4点
⑪赤黒いゼリー状の血便が出る 6点