《バイデン大統領の行動は恥ずべきもので、腐敗している。彼は経済・国家安全保障上の重要な同盟国である日本を侮辱し、アメリカの競争力を危険にさらした》
これは、日本製鉄による米大手鉄鋼メーカー、USスチールの買収計画禁止命令を巡り、USスチールのデビッド・ブリットCEOがXに投稿した怒りに満ちた声明だ。
日本製鉄がUSスチールの買収計画を発表したのは、2023年12月。しかし、この買収に対しアメリカ鉄鋼業界の労働組合「USW」が一貫して反対の姿勢を示したことで、米国内でも反発が拡大。先の大統領選で団体票を目論んだバイデン氏は、労働組合寄りの姿勢を見せていた。そんな中、任期満了を前に突如ぶち上げたのが、「国家安全保障上の脅威になる」との理由での買収計画禁止命令だった。
「日鉄は1月6日、この命令を不服としてバイデン氏らを提訴したと発表。USスチールも原告に加わっていますが、日本の大企業が米大統領を訴えるのは異例のこと。この提訴により2兆円超の大型買収計画は、いよいよ法廷闘争に突入することになります」(外報部記者)
ところが、今回の命令を巡り、米政府が3日に発表したプレスリリースに、日鉄の買収計画とはまったく無関係な中国系企業の名前が誤って表記されていたことで、ある疑いが再燃している。それが、バイデン氏が中国系企業と日本企業を間違えて命令を出したのではないか、とのトンデモ疑惑だ。
「ホワイトハウスから発表された書面は、3日朝に報道関係者らに電子メールで一斉送信されたもので、表題には『マインワン・クラウド・コンピューティング・インベストメントによる特定の不動産取得に関する命令』と記されている。だた、これは米政府が昨年5月、暗号資産を扱う中国系企業に対し、米軍基地に近接する土地の取得を禁じた命令の発表文とまったく同じもの。おそらく、担当者が当時の表題を誤って掲載したケアレスミスとみられています」(同)
ところが、皮肉なことに、この文章がバイデン氏の「認知症」疑惑の再燃に一役買ってしまったというわけである。たしかにバイデン氏は、これまでにも公の場で幾度となく海外首脳の名前を言い間違えてきた。昨年7月の記者会見でも、ハリス氏に対する信頼について問われ「彼女に大統領になる能力がなければ、トランプ副大統領を副大統領には選ばなかっただろう」などと、ハリス副大統領とトランプ氏の名前を混同。また同日に行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議関連会合では、あろうことかウクライナのゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と言い間違えて、側近たちをハラハラさせたことも記憶に新しい。
「とはいえ、いかにバイデン氏といえど、今回は日本企業と中国企業とを間違えたとは考えづらい。ただ、FOXニュースなどが米下院議員の談話を交え、『バイデン氏は買収計画阻止で日本を中国と混同』などと煽って報じたことで、SNS上ではくすぶってきた認知症説が一気に再燃してしまったようです」(同)
それはさておき、今回の「買収計画禁止命令」は今後、法廷で争われることになるわけだが、20日に就任するトランプ氏はこの問題に関して、どのような態度で臨んでいくのか。
トランプ氏は6日、自身のSNSに《関税(の引き上げ)によって、はるかにもうかり、価値のある会社になるというのに、誰がUSスチールを売りたいと思うだろうか》と投稿。現状では日鉄によるUSスチールの買収計画には反対の立場だ。ただ、トランプ氏の場合、前言をいとも簡単に覆すことが日常茶飯のため、アメリカの製造業復活の道筋が見えれば日本側にディールを仕掛けてくる可能性もなくはない。
(灯倫太郎)