中国人民解放軍が10月14日、台湾を包囲する形で大規模な軍事演習を実施した。2022年以降、同様の演習を繰り返している中国だが、今回の演習は台湾の頼清徳政権が発足した5月以来初のこと。その背景にはむろん、武力による威嚇で心理的な揺さぶりをかけ、台湾政府を屈服させる狙いがあることは明らかだ。
今回の軍事演習について中国軍の報道官は、「『台湾独立』勢力を震え上がらせ、国家主権と国家の統一を守るための正当で必要な行動だ」と主張。近年は台湾への侵攻をあからさまに口にするようになった中国だが、そんな流れを反映するように、今、中国エンタメ界でも「もしも中国軍が台湾に侵攻したら」で想定される展開をリアルに伝えるドキュメンタリーシリーズが放映され、話題になっているという。中国ウォッチャーの話。
「問題の番組は、中国の国営テレビ局『中国中央電視台(CCTV)』が放映している『淬火(ツイ・フオ)』。同番組は全話で第6集(エピソード6)あり、前半では統一の悲願を自分たちの手で実現することを誓う若い兵士らが登場。彼らが高度な実動訓練をこなしていく模様を伝えながら、中国軍将校が実際の兵器や軍事演習の様子を解説。台湾島上陸作戦のシミュレーション映像では国軍空挺部隊の攻撃に対し、台湾軍が携帯式地対空ミサイルで猛攻撃してくる、といった実にリアルなシーンもあり、中国国内では大作映画さながらの人気だったとされています」
ただ、とどのつまり、このドキュメンタリーは中国軍兵士の士気と機動力の高さを誇示したいがためのプロバガンダなのだが、対する台湾でも中国の軍事侵攻をテーマにした番組制作が進んでいる。それが来年から放送がスタートするというドラマ「零日攻撃ZERO DAY」だ。前出の中国ウォッチャーが続ける。
「こちらはドキュメンタリーではない全10話のドラマ。今年7月に公開された約18分にわたる予告編によれば、内容は捜索救助活動を装った中国人民解放軍により台湾が海上封鎖され、サイバー攻撃で通信網も破壊。銀行では取り付け騒ぎが起こり、中国軍の上陸を目前に控え台湾社会全体が混乱に巻き込まれていく様を描いた社会派ドラマのようです」
同ドラマの制作には台湾政府も一部出資しているとされ、予告編が公開された日は、奇しくも中国の侵攻の可能性に備え2300万人の台湾国民が防空避難訓練を行った日だった。台湾軍関係者の中には、ドラマの影響で台湾軍に志願する新兵急増を期待する声も多いという。
「正直、台湾が自国で中国を抑止し抵抗できる可能性はないにせよ、近年の中国からの執拗とも思える威嚇に対し、台湾全体の国防に対する意識が変わってきたことは間違いない。今年から兵役義務が4カ月から1年に延長になったのも、そんな背景がある。しかしこれまでは、“極めてセンシティブな問題”として、エンタメの世界では両国のいがみ合いをリアルに描く作品はなかった。つまり、状況はそこまで悪化しているということです」(同)
さらに10月には、台湾のボードゲームメーカー「ミゾ・ゲームズ」が20年後を想定した中国の対台湾「特別軍事作戦」に立ち向かうボードゲーム「2045」の製作を発表。また中国政府が支配する未来の台湾を舞台にした小説や、トランプ氏が米軍を派遣し、台湾に侵攻する中国軍を撃退する漫画シリーズも発売され、若者を中心に圧倒的支持を得ているという。
目には目を歯には歯を、エンタメにはエンタメを…無駄な血が流されるよりはよほどいいかもしれない。
(灯倫太郎)