山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」令和の時代アパートだって「広さ」が欲しい!

【今回のお値段「木造アパート」:建築費トータル5000万〜6000万円前後(月家賃収入50万〜100万円程度)】

 実はアパートとマンションには、法律で決められた明確な違いはない。ただ、世間的にはアパートは木造、ないしは軽量鉄骨でできた2階建て、3階建てくらいまでの共同住宅で、3階建て以上の鉄筋コンクリートはマンションに分類される。ただ、ある業界関係者によれば、

「近年は木造の5階建てマンション、なんていうのもできていて、二酸化炭素の排出量が鉄筋に比べて少ないのもあり、税金が安くなったりします。基礎工事費用も木造の方が安いし、木材には湿気を調節する機能もあって需要も高まっていますね」

 とはいえ、いまだに木造といったらアパートというイメージは強い。では、一体、木造アパートを建てるのにどれくらい費用がかかり、その費用をどう回収しているのか?

 仮に大都市近郊、60坪程度の土地を持ち、そこに建坪30坪、延べ床面積60坪の木造アパートを建てるとする。かかる費用は、坪単価80万〜100万円として、総額5000万〜6000万円といったあたりが相場となる。昔に比べて耐震基準が厳しくなっており、なかなかこれ以下には下げられない。もともと家が建っていた場所なら、これに加えて200万〜300万円前後の解体費もかかる。それでも鉄筋コンクリートより3〜4割は安い。

 で、仮に6世帯あって、1世帯の家賃10万円で貸すとなると、月の収入は60万。そのうち30万円はローンの返済や固定資産税などの支払いに充て、修繕費などに5万円プールすると、25万円が手元に残る計算となる。つまり自己資金ゼロで建てたら、ローンの返済だけでも30年以上かかってしまうわけだ。耐用年数は木造30年、鉄筋50年とも言われ、ローンが終わる頃には、建物の建て替えが必要になってくる。

 しかも、これはあくまで土地は自前が大前提。土地までローンで購入すると、利益をあげるのは難しい。しかも大都市圏では地価も高く、2階建てでは効率も悪い。そのため、木造アパートのオーナーといえば、都市近郊のかつて農業をやっていた地主さん、といった層が多くなるのだ。

 近年の傾向として、アパートも、単身者用のワンルームより、家族で住む2DK以上の間取りの部屋の需要が増えているとか。

 前出・業界関係者によれば、

「坪でいうなら13〜14坪、45㎡以上くらいの、そこそこの広さの部屋が人気ですね。狭いのを我慢して家賃を節約するより、少しでも居心地よくしたい、という願望の表れでしょうか。大家さんにとってもありがたい。居住者がクルクル入れ替わるより、長く住んでもらえる方がいいですから」

 木造アパートも、それなりに変わりつつあるのだ。

山中伊知郎(やまなか・いちろう) 20代から30代にかけて住んでいたのが、東京・谷中の四畳半。裏が墓地、毎晩、天井でネズミが運動会しているようなアパートだった。

マネー