──国民生活は円安、物価高で汲々としている。
池上 今の円安で言えば、典型的なアベノミクスの副作用です。そもそもアベノミクスはとにかく金融緩和をして円安にすることによって輸出産業を増やすんだっていうやり方をしてきたわけです。だから、初期の頃は1ドルが79円でした。そこから110円、120円、130円と徐々に下がり、その後一挙に極度な円安に進んでしまいました。これは、日銀黒田総裁が金融緩和を続けて、金利を上げようとしなかった。すると海外の投資家にすれば、黒田総裁である以上、絶対に日本は金利を上げようとしない。一方、アメリカはインフレ対策で金利を上げている。日米金利差はまだまだ続く。それならば円を売ってドルを買った方がいいということが続いてきたわけです。
──6月には一時1ドル=160円台後半まで円安が進みました。
池上 そうでした。円安でもう1つ言えば、今の若い人が、資産を増やすために新NISAに投資を始めた。すると証券会社は投資された円をドルに代えて金利の高いアメリカの株を買うわけです。つまりここで円売りドル買いが起きているわけです。結果的に若者たちがNISAをすることで円安が進んでいるわけです。
──いつの日か円高に戻ることはあるでしょうか?
池上 いずれ、長期的には。この秋以降、FRB(アメリカの中央銀行)が金利を下げる。そうなれば、日米の金利差がちょっと縮まるんじゃないかという観測がありました。ところが、トランプがFRBに圧力をかけて、今、金利を下げて景気をよくしようとするのはバイデン政権を応援することだと発言したのです。それにより共和党の議員たちが金利を下げることに反対しているんです。ですから、もしトランプが大統領になったら、「景気をよくしろ」と金利を下げ、結果的に円高になる。来年以降の話ですけどね。
──なんだか、トランプ待ちの心境になってきました。“もしトラ”どころか“確トラ”でしょうか。
池上 大統領選にはオクトーバーサプライズという言葉があります。11月の選挙の直前の10月にとんでもないことが起きて選挙戦が大きく動くことがあるんです。16年のヒラリーVSトランプでは、圧倒的に有利だったヒラリーに「メール問題」が浮上して支持率がガクンと下がった。その結果、トランプが逆転したというわけです。今回、銃撃事件で共和党のトランプに一気に流れが行くかと思いましたが、民主党もカマラ・ハリスを担いで旋風を起こし、トランプを激しく追い上げ、今や両者の支持率は拮抗しています。現時点では予測不能です。
──ますます米大統領選が見逃せなくなってきました。先週に続き、ありがとうございました。
池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。
*週刊アサヒ芸能8月29日号掲載