最初に「ぼったくり男爵」と揶揄したのは、米有力紙ワシントン・ポストだったが、そんな不名誉なあだ名を付けられた国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が8月10日、来年6月の任期満了をもって退任する意向を表明した。
バッハ氏は2013年に会長に就任。21年に再選され現在2期11年目(任期は12年)にあたるが、同氏は退任の理由について、「五輪憲章を改定した一人として、自分たちのためのガバナンスを尊重しないといけない。加えて(デジタル化が進む)この新しい時代に、私の年齢では最高のキャプテンではない」として、来年以降は後進に五輪運営を託したい、と強調した。同氏の退任発表を受け、さっそく一部メディアでは、国際体操連盟(FIG)会長の渡辺守成氏が「IOC委員の仲間からも候補者として名前が挙がっており、前向きに考えたい」と立候補に意欲を示したと報じている。
「東京五輪の際、日本の情報を集約するパイプ役を務めたのが渡辺氏だった。IOCの中でもたいへん信頼がある人物で、実行力があり頭もキレる。可能性はゼロではないと思いますよ」(スポーツジャーナリスト)
では、13年の会長就任から2期にわたりIOC内で絶対的権限を持ってきたバッハ氏とは、いったいどんな人物なのか。
「バッハ氏はドイツのヴュルツブルク生まれ。子供のころからサッカーやフェンシングに打ち込み、1976年のモントリオール五輪では、フェンシングで金メダルを獲得。その後、独学で弁護士資格を取得、法学博士の称号も取得しています。スポーツ界に人脈が広がったのは、アディダスで国際マーケティング部長に就任してからで、1991年にIOC委員に就任して理事、副会長を経て東京五輪が決定した13年、9代目のIOC会長に就任したというわけなんです」(前出のスポーツジャーナリスト)
故・サマランチ元会長の信頼も厚かったとされるバッハ氏は、会長就任後「五輪を完全に商業化させた男」としても知られ、そんなことから、いつのまにか日本でも「ぼったくり男爵」なる不名誉な名称が定着してしまったわけだ。
「東京五輪の際には、1泊250万円もするホテルオークラの部屋に宿泊。広島市訪問の際にも、警備費379万円を同市と広島県に負担させるなど、とにかく“金食い虫”と知られています。しかも、コロナ禍での開催ですから普通なら開会式終了後、すぐに帰国してもよさそうなものですが、翌日にはしっかり『銀ブラ』している姿が目撃されていますからね。新型コロナウイルス禍で東京五輪開催に反発が高まっていた前年には、さんざん『日本国民の皆さんが大切だ!』などと呼び掛けておきながら、閉幕後も日本観光を満喫する同氏の言動が、国民感情を逆なでしたことは言うまでもありません」(前出のスポーツジャーナリスト)
IOCによれば、バッハ氏の年間報酬定額は、22万5000ユーロ(約3000万円)。同氏の住まいであるサマランチ時代から住居として使用されている「会長公邸」は、五輪の総本山である、スイス・ローザンヌ駅近くの高台にそびえる五つ星ホテルで、同ホテルから望むレマン湖の眺望は格別だとか。もちろん、会長公邸なので費用はIOC負担である可能性は高い。
「数年前に改築された『五輪ハウス』と称されるローザンヌの新本部は、総ガラス張りで、その費用はなんと約160億円。当然、その金も五倫の放映権を含めた原資であることは明らかです。『平和の祭典』というスローガンのもと、結局はIOCが巨大利権の巣窟となり、そこに金が集まる。そしてその金の流れを束ねるのが、リーダーである会長というわけですからね。ぼったくり男爵と言われても致し方ないでしょうね」(前出のスポーツジャーナリスト)
一部報道では、「ノーベル平和賞も視野に入れているのではないか」との見方もあったとされるが、来年6月までの満期までは現在の独裁政権が続くことになる。かつて、故・石原慎太郎元都知事が「恐るべき魑魅魍魎の世界」と表現したIOC。次期会長人事に世界のスポーツ界の注目が集まっている。
(灯倫太郎)