山中伊知郎「あなたの知らない“原価”の世界」カットパインの普及は小売店側に大きなメリット

【今回のお値段「パイナップル」:キロ400~700円が1パック200~250円×6パック以上】

 パイナップルは一年中、いつでも食べられるが、やはり「南国の果物」で「夏場が旬」のイメージが強い。現実に、日本国内での主たる産地の沖縄本島や石垣島のパインなどは、5月から8月くらいまで収穫される。

 とはいっても、やはり多いのは輸入物。特にフィリピン産が中心。しかし今年は水害もあって収穫量が減り、代わりに増えているのが台湾産だとか。業界関係者によれば、

「色もちょっと違うんですね。フィリピン産の方が果肉が微妙に黄色っぽさが強かったり。味もフィリピンより台湾の方がより濃いというか、あまり水っぽくない。ただ、市場で買える値段はそれほど変わりません」

 市場価格をキロ単位で見ると、大体フィリピン産、台湾産で400~500円前後。これが今年は円安の影響もあって1~2割は上がっている。国産でも700~800円程度で、さほど大きな差はない。小売店では市場価格に2~3割くらいは乗せて輸入物なら600~700円、国産なら900~1000円くらいで売られている。

 マンゴーのような香りと強い甘みが特徴のマンゴーパイナップルなども広く出回っているが、市場価格もキロ600~700円で、「高級品」ではない。

 パイナップルの特徴は、収穫した後にも果肉が柔らかくなったり、甘みが増したりする「追熟」がないこと。例えばバナナなら、皮が緑色で硬いうちに収穫して、輸送している間に黄色みがかっておいしくなったりするのだが、パインは、獲れたその場が食べ頃なのだ。

 皮がカタく、包丁でもなかなか切れずに生のまま買ってくると手間がかかり、食べても舌がヒリヒリするところから、パイナップルは缶詰の需要が多かった。が、今ではすでに切られた状態で販売されるカットパインが、スーパーやコンビニなどでも手軽に売られ人気を集めている。カットの手間が省けて食べやすいだけでなく、生ゴミがほとんど出ないのもメリットだ。前出・業界関係者いわく、

「カットパインの普及は、店側にとってもありがたいんです。自分たちが自由に切る大きさや個数を決められるので、値段設定も自在なんです」

 仮にキロ500円で仕入れたパインなら、皮や芯を取っても、1パック200~250円として6パックに分けたら売値は1000~1500円。手間賃や容器代を差し引いても、十分に利益は出る。さらに利益率を上げたければ7分割にも8分割にもできる。

 いずれ、パイナップルの原形を知らず、カットされたパインがそのまま木になっていると誤解する子供も出てくる時代が来るかも。

山中伊知郎(やまなか・いちろう) カットパインをさらに細かく切って、バナナやリンゴと一緒にヨーグルトをかけて食べるのが大好き。あえてプレーンヨーグルトを使って、フルーツのうま味を味わうのだ。

マネー