韓国・統一省傘下のシンクタンク「統一研究院」が発表した「統一意識調査」(2024年4月調査)で、「韓国の核保有に賛成する」と答えた回答者が66.0%となり、前回の60.2%から増えたことが明らかになったのは、今年6月のこと。軍事境界線を隔て北朝鮮と接する韓国には、かねてから朝鮮半島有事において、核武装こそが自国を守る最大の手段、とする声が根強かった。
韓国と北朝鮮問題に詳しいジャーナリストが解説する。
「韓国は1970年代、核兵器開発計画を進めたことがあり、この時はアメリカに計画が露呈してしまい、アメリカ側から、『このまま核開発を続けるか、アメリカが持つ核の傘の下に入るか』の二社選択を迫られ、結果、韓国政府がアメリカから支援を受けることを選択。朝鮮半島に数万人の米兵が駐留することになったという経緯があるんです」
ところが周知のように、その後韓国と北朝鮮を巡る情勢はくっついたり離れたりと激変。だが、ここへきてロシアと北朝鮮とが事実上の軍事同盟を結んだことで、朝鮮半島有事への危機感が一気に高まりを見せることになる。
「これまで韓国はウクライナに殺傷兵器を提供せず、ロシアに対しても中立的な態度をとってきただけに、6月16日に北朝鮮とロシアが締結した新たな同盟は想定外の衝撃だったと言われています。そこで政府関係者の中からも、金正恩総書記が韓国に攻撃を仕掛けアメリカ介入の状況を作り、アメリカが撤退しなければ米本土を核爆弾で攻撃する。仮にそうなった場合、米政府は自国を守るため、韓国は見捨てられる。つまり、自分の身は自分で守る、核には核で対抗するしかない、という声が急激に高まってきたというわけなんです」(同)
そして、そんなタイミングで起こったのが、今回のトランプ氏の暗殺未遂事件だった。トランプ氏は大統領だった2016年、韓国がアメリカの防衛体制に対し「タダ乗りしているだけだ」と痛烈に非難。在韓米軍の経費をすべて韓国政府に負担させるか、それができなければ軍を撤退させると圧力をかけたことがあった。
「バイデン大統領の人気が急低下している中、今回の暗殺未遂で『もしトラ』が『ほぼトラ』になったことは間違いない。となれば、16年のトランプ氏の発言が俄然、真実味を帯びてくるはずです。しかも、トランプ氏が大統領になった場合、北朝鮮と直接外交に出ることも十分考えられる。韓国与党『国民の力』所属で核戦略フォーラムのメンバー、チェ・ジヨン氏などは、『自分たちのことを他国が守るべきだと考えるなんてばかげている。これは私たちの問題であり、私たちが責任を負うものだ』と声高に叫んでいますが、韓国内では今後、核についての議論が活発化されることは間違いないでしょうね」(同)
トランプ氏再選により、尹政権がバイデン政権と交わした「ワシントン宣言」の効力が弱まるようなことになれば、韓国世論全体が核武装容認へと傾く可能性も否定できないが、そうなれば、隣国である日本としても対岸の火事などとは言っていられなくなるだろう。11月まで4カ月を切ったが、すべてが米大統領選の行方にかかっている。
(灯倫太郎)