「すでにアメリカ南部では羽化が始まっていて、市街地では夥しい数の成虫が街路樹を埋め尽くす様子を見ることができます。日本ではうるさい鳴き声や見た目から毛嫌いされることが多いかもしれませんが、アメリカでは19世紀はじめ以来の出来事とあって、街をあげて盛り上がっています」
外信部記者が説明するのは「素数ゼミ」。北米固有のセミには、13年周期で羽化する「ブルード19」と17年周期で羽化する「ブルード13」があり、この2種が同時発生するのが今年2024年。つまり221年に一度の大発生が観察できるというわけだ。
「ニューヨークタイムズによれば、アメリカの16の州で計1兆匹のセミが大量発生するとのこと。確かに『1兆』となれば、とんでもない数にのぼりますが、バッタなどと異なり、セミの主食は樹液ということもあって、農作物に被害が出るとは考えにくい。むしろ、昆虫食を広めるのに一役買うのではないかという声も…。実際、3年前に大発生した時には、タンパク質が豊富な食材として注目を集め、タコスやピザのトッピングに採用する飲食店も見受けられました」(在米ジャーナリスト)
Ⅹで「cicada(セミ)」とともに「proteins(タンパク質)」「cooking(調理)」といったワードで検索すると、皿に並べられたセミの素揚げや素焼きした後に粉々にしたセミのシリアルなど、さまざまなセミ料理がヒット。中にはセミを丸ごとトッピングするタコス店もあった。
「初心者がいきなり成虫を食べるのはハードルが高いかもしれませんが、幼虫を加熱処理したスナックは比較的ポピュラーです。ただ、気を付けてほしいのはアレルギー。セミは節足動物にカテゴライズされ、骨格にはキチン質が含まれます。そのため、エビやカニなどの甲殻類にアレルギーを持つ人が摂取すれば、重篤なアナフィラキシーを起こす可能性もあります。3年前には、アメリカの食品医薬品局(FDA)が、SNSで『アレルギーを持っている方は、セミを食べないで』と警告していたほどです」(前出・在米ジャーナリスト)
かつては日本でも、食用目的でセミを大量捕獲する動きが見られ、公園では看板などで注意喚起を行っていた。商品化されている“養殖モノ”の昆虫にはパッケージにアレルギー情報がしっかりと記載されている。セミの大発生で昆虫食がクローズアップされるかもしれないが、健康リスクを頭に入れておくべきだろう。
(福島シゲル)