EU欧州議会選挙「極右派が急伸」の裏にあったロシアの「戦争プロパガンダ」

 27カ国、計約3億6000万人の有権者によって5年に1度行われるEUの欧州議会選挙(720議席)。2024年は10回目となる選挙の年であり、投票は6月6~9日に行われた。結果は、ウクライナ支援を続ける現EU政策に批判的な中道右派や極右勢力が大幅に伸長し、今後のEU政策に大きな影響を及ぼしそうな情勢となっている。

 今回の選挙では、続投を目指すフォンデアライエン欧州委員長を支えるEU三会派が400議席を上回り、現体制派がなんとか過半数を維持した。しかし、その一方で右派の「アイデンティティーと民主主義(ID)」や、同じく右派の「欧州保守改革(ECR)」、さらにIDから分派したドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」も急伸している。

 実は、こうした勢力の台頭の背景には、現EU体制を弱体化させたい「ロシアの暗躍」があったという。アメリカのシンクタンク関係者が分析する。

「右派が伸びた背景には、深刻なインフレで生活が苦しい庶民が、移民政策やウクライナ支援を続ける現体制の政策に反発していることがあります。そしてもう1つ、こうした庶民感情につけ入る形で、ロシアを支援する勢力が、反EU情報を大量に流すとともに、一部のEU議員に取り入るなどしてネガキャンを繰り広げたため、とも言われているんです」

「ロシアの暗躍」については、日本の公安当局関係者もこう明かす。

「今年3月、チェコのプラハに拠点を置いたニュースサイト『ボイス・オブ・ヨーロッパ(VOE)』に捜査が入りました。ロシアを支援する団体などがVOEに資金を提供し、情報操作をしていたのでは、という疑いが持たれていますね。捜査当局によれば、親ロシアのウクライナ新興財閥『ヴィクトル・メドヴェチュク』が、VOEをコントロールしていたといい、VOEに渡ったカネは、日本円にして数千万円から数億円とも報じられました。さらに、VOEを通じてフランスやヨーロッパ各国の政治家にカネが流れていたとされ、こうした政治家は、ウクライナのEU加盟に反対する論陣を張っていたというのです」

 フランスでは、《EUにウクライナの居場所はない》といったCMがSNS上に流されたり、3月にはウクライナ兵がフランスの病院に入院した際、《フランスが結核流行の恐れに脅かされた》との偽情報がSNSで拡散された。こうしたことが、ロシアによるプロパガンダだったと言われているのだ。

 プーチン大統領の右腕とも言われるメドべージェフ安全保障会議副議長は今回の選挙結果について、「自国民を犠牲にし、ウクライナの民族主義者を支援する無能な政策の反映だ」などと語って、欧州議会選で敗北したマクロン仏大統領とショルツ独首相を痛烈に批判している。

 ウクライナ戦争のもう1つの戦いとも言える「情報戦」が、EUの議会選挙にまで及んだと言えそうだ。

(田村建光)

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