ここに来て激しさを増すロシアによるクライナ侵攻。通算5期目の政権運営に入ったプーチン大統領は、夏にかけてさらに攻勢をエスカレートさせていく方針で、春にも追加で兵士15万人を動員するための大統領令に署名した。
ウクライナ側も米国からの支援が再開され、提供された武器でロシア国内の標的を攻撃することも、限定的だが認められた。ミサイルなどの発射拠点を叩くことで、これ以上ロシア軍の支配地域を拡大させないよう力を注ぐことになる。
中東では依然としてイスラエルが攻撃の手を止める姿勢を見せない。パレスチナ側の犠牲者数は既に4万人に迫ろうとしているが、イスラエルはガザ最南部ラファに侵攻し、反イスラエル感情は拡大する一方だ。イスラエルはハマス殲滅を掲げて軍事行動を続けているが、一般市民とハマスのメンバーを区別することは事実上不可能に近く、国際司法裁判所はイスラエルに対しラファへの攻撃を即時停止するよう求めている。
このように2つの戦争が同時並行で続く中、今の米国が最も恐れるのが同時多発的な「3正面戦争」だ。
台湾では5月、中国が独立派と敵視する民進党の頼清徳氏が新総統に就任したが、中国軍はその直後から2日間にわたって台湾本土を包囲する形で軍事演習を実施し、頼氏を強くけん制した。頼氏は就任演説で“中国と台湾は互いに隷属しない”と発言したが、これは中国からすれば台湾独立宣言と等しく、頼政権下の4年間で堪忍袋の緒が切れた中国が台湾へ侵攻する可能性は十分にある。
現在進行形の2つの戦争と台湾で決定的に異なるのが、米国が戦争当事者となるかならないかだ。台湾有事は事実上日本有事でもあり、そうなれば米国が戦争当事者になることは避けられない。しかも、台湾有事では米中2大国が衝突することになるので、世界的な影響度はまるで異なり、悲惨な状況が世界中を覆うことになるだろう。
今日の米国に3正面で対応できる余裕はない。台湾で戦争が勃発すれば米国はそれに全神経を集中させることになり、ウクライナ支援などはできなくなるだろう。そうなれば欧州では西側諸国とロシアとの軍事衝突のリスクが飛躍的に高まる。ウクライナ、イスラエル・パレスチナ、台湾での同時多発的な3正面戦争、考えたくはないシナリオだが、その可能性は高まってきている。
(北島豊)