北朝鮮の国家航空宇宙技術総局が5月28日未明、国営の朝鮮中央通信を通じ、軍事衛星の「打ち上げ失敗」を発表した。それによれば、今回打ち上げられたのは、軍事偵察衛星を搭載した新型ロケットで、27日、北西部の東倉里(トンチャンリ)にある「西海(ソヘ)衛星発射場」から発射後、1段目が空中爆発して失敗したという。
北朝鮮による軍事偵察衛星打ち上げは昨年11月以来、4回目。1回目(昨年5月)は2段目のエンジンに異常が発生。同8月に打ち上げた2回目も3段目のエンジンに異常が発生し、失敗。3回目(同11月)は軌道投入までは成功したが、地上との通信を行っている形跡はなく、偵察衛星としては機能していない代物と見られている。
「軍事偵察衛星は、北朝鮮が2021年から掲げる国防5カ年計画の中でも金正恩総書記の肝いりとあって、1回目の打ち上げ失敗時は労働新聞も朝鮮中央テレビも一切触れず、国民には知らされなかった。6月中旬に正恩氏が総会で『最も重大な欠点は宇宙開発部門で重大な戦略的事業である軍事偵察衛星の打ち上げに失敗したことである』と発言して国民が知ることになったわけですが、その際、国家宇宙開発局幹部らを『責任は衛星打ち上げを推進した活動家らにある』と激しく叱責。失敗の原因究明を命じたといわれます。ところが、8月に打ち上げた2度目も失敗。そこで意を決した正恩氏が自らロシアに技術協力を求めるに至ったとされています」(北朝鮮に詳しいジャーナリスト)
昨年9月、ロシアを訪問しプーチン大統領と会談した正恩氏は、北朝鮮がウクライナ侵略に投じる大量の砲弾や、弾道ミサイルをロシアに提供する代わりに、その見返りとしてロシアからのロケット技術支援を提案。プーチン氏が受け入れ、多くのロシア技術陣が訪朝し、ロケットに搭載する新型エンジンの燃焼実験を重ねてきたとみられている。
今回の打ち上げ失敗について北朝鮮は、新たに開発した「液体酸素+石油エンジン」に問題があったと説明しているが、
「推進剤に用いた灯油の主成分であるケロシンという物質と液体酸素を組み合わせるという技術は、これまでにはなかったものなの。なので、おそらくはロシアが技術支援した可能性が高い。ただ、4月とされた打ち上げが5月末までずれ込んだのは、最終段階で何らかの問題が残ったからでしょう。昨年から砲弾や弾道ミサイルなど、かなりの数をロシアに提供してきた北朝鮮としては、ここまでしてやったのだから今度はなにがなんでも成果を上げてもらいたかった。本来であれば失敗要因など公表しない北朝鮮が、今回に限っては打ち上げ失敗から問題部分の説明をするなど異例の動きを見せたのは、正恩氏によるプーチン氏への怒りのプレッシャーと考えて間違いないでしょうね」(同)
専門家によれば、ロケットを1基製造するためには、1万個以上の部品が必要で、その費用は6億~8億ドル。つまり北朝鮮は今回を含め3度の失敗で、北朝鮮は瞬時にして20億ドル(約3000億円)前後を失ったことになる。外貨獲得のため、北朝鮮による国家を挙げての犯罪のエスカレートが懸念されるばかりだ。
(灯倫太郎)