日本の国会にあたる中国の全国人民代表大会の常務委員会は4月、関税法を可決した。この法律は12月1日から施行されるが、貿易相手国が条約や協定に違反して中国の輸出品に対して不当な関税引き上げなどを行った場合、中国が当該国からの輸入品に対して報復関税で対抗することなどを定める。
この関税法が想定する敵は、米国である。秋の米大統領選挙まで半年となったが、その行方は中国にとってはそれほど重要ではない。なぜなら、現職のバイデン大統領もトランプ氏も中国に対しては厳しい姿勢を貫く構えで、積極的に貿易規制を仕掛けることが間違いないからだ。バイデン大統領はこの4年間、新疆ウイグル地区の人権侵害や先端半導体の軍事転用防止という観点から中国に対する輸出規制を強化し、トランプ氏は大統領に返り咲けば中国製品に対して一律60%の関税を課すと豪語している。
今回の関税法の可決は、来年1月に始まる米新政権に対する政治的けん制となる。要は、米国が対中規制を強化すれば中国も報復関税を躊躇しないという政治的シグナルを米国に送る狙いだ。バイデンが勝とうがトランプが勝とうが、米中貿易戦争がいっそう激しくなることは間違いない。関税法はそれを見込んでの中国の行動だろう。
だが、関税法が想定する敵は米国だけではない。日本もその標的になる恐れがある。米中の間では半導体を巡る覇権競争がエスカレートしているが、バイデン政権はその先端分野が中国にわたって軍事転用されるリスクを回避するため、先端半導体分野での輸出規制を強化。日本に対しても同様の規制を強化するよう要請し、日本も昨年7月から先端半導体の製造装置などで中国への輸出規制を強化している。
中国は日本が米国と足並みを揃えることに強い不満を抱いており、昨年8月の日本産水産物の全面輸入停止は、中国による対抗措置の一環だ。今後、米国は率先して中国への貿易規制を強化し、日本にも同調圧力をかけてくるだろう。安全保障にかかわる輸出規制であれば日本は米国に「NO」は言えないが、その際には日本がこの関税法の餌食になるだろう。
(北島豊)