日本の鉄鋼最大手の日本製鉄は12月18日、アメリカ鉄鋼大手のUSスチールを買収することで両社が合意に至ったと公表したが、買収額が約2兆円という巨額だったことも話題となった。
「USスチールは、『鉄鋼王』と呼ばれたアンドリュー・カーネギーや、金融大手のJ.P.モルガンの『モルガン財閥』などが保有する複数の鉄鋼会社を合併してできた、かつてはアメリカ最大の企業だった会社です。日本製鉄にとっても過去最大の買収金額で、粗鋼生産能力で世界第3位に躍り出る大型買収でした。これにより日本製鉄は、先細った国内需要に比して格段に大きいアメリカ市場の成長性を取り込めることになるなど、メリットは大きいと言われています」(経済ジャーナリスト)
ただ、市場はこの買収劇を諸手を挙げて歓迎したわけではなかった。日本製鉄の株価は翌19日には一時6%も下落したのだ。
「買収金額が割高であることや、過去の日本企業の大型海外M&Aがあまり成功をもたらしていないことが懸念材料となっています。さらに、買収完了までには、アメリカ規制当局の審査やUSスチール組合の反対、株主総会での承認といった、3つの壁が残されていることもあります」(前出・ジャーナリスト)
ところが、この買収はさらに別のところにも波紋を投げかけているという。
「2024年に行われる大統領選挙です。アメリカを代表する企業が日本企業に買われることはアメリカの没落を想起させ、現大統領のバイデン氏を擁するアメリカ民主党の票田を犯す可能性があるのです」(政治部記者)
12月18日には、バイデン氏の支持率が34%で過去最低となったことが明らかになっている。理由はメキシコ国境の移民問題とインフレの経済政策とされるが、買収の今後の推移によっては、鉄鋼労働者がバイデンを見限る可能性も考えられるという。
「ハリウッドの俳優組合がストを起こし、世界中の映画配給スケジュールに大きな支障をきたしたように、アメリカは組合が強い国です。そしてアメリカ民主党は、9月にあった自動車業界のストでバイデン氏が『粘り強く頑張れ』と檄を飛ばしたように、組合を大票田としています。しかし、今回の買収について組合は反対。バイデン氏も『鉄鋼労働者と競争を支持する』と、間接的に組合側に立ったコメントをしているんです」(前出・記者)
2兆円という巨額ばかりが喧伝される今回の買収劇だが、その裏では様々な面で多大な影響を及ぼしているようだ。
(猫間滋)