中国経済の減速は世界に知られていることだが、国内の大多数の中国人は共産党が発信する情報を信じ、景気が回復すると信じている。
しかし、特権に恵まれた共産党幹部一族に象徴される富裕層は、情報に精通している。中国は経済ばかりか、社会体制を含めて「お先真っ暗な闇に堕ちている」と認識していて、いずれ毛沢東時代のような富裕層イジメが始まると確信し海外へ逃げ出すことを本気で考えている。
私的なことだが、このゴールデンウィークに中国の知人から「日本入国(移民)」の協力依頼のメールがあった。
その知人とは約30年前、中国が外資企業誘致をすることが国を繁栄させる鍵と捉え、企業誘致セミナーを頻繁に開催していた時期の会合で出会った。
知人は当時、ある地方政府の幹部に過ぎなかったが、出世街道をかけ上り、最終的に共産党体制の最高幹部を意味する25名の政治局員に準じた時期がある元エリートである。俗な見方をすれば、出世の階段を上るたびに「特権」が広がり、その度に途方もないカネを手に入れ、女性にも不自由しない人生を送っていた。
ところが、不動産バブル破綻が金融破綻に及びかねない状況に、習近平政権の政策は「共同富裕」に窺えるように“毛沢東化”し、富裕層からカネをむしり取る戦力が見え始めたという。現金を簡単に移動できない富裕層にとって、不動産バブルの破綻は実に辛い。売り逃げたとしても、隠すことは容易ではない。さらに、江沢民、胡錦涛時代にあった言論の自由がほとんどなくなったことで、生活が息詰まるような思いをしているという。
そこで知人は第二夫人を日本人に帰化させたいと考え、その第一歩として「『経営管理ビザ』を取得できるよう貴兄(記者)と共同経営の会社を設立したい」と依頼してきたのだ。観光ビザでは日本に留まる期間は最長で6カ月間に過ぎないが、経営者ビザなら最長5年間は出入国が自由であり、帰化申請の条件に最も近くなる。また、中国経済に資する技術獲得のための投資という理由で、カネを移動しやすくなる。
要は日本に資産を移し、いつでも一族で日本へ移れるよう準備を始めているのだ。
日本を選んだ理由は、日本は法治国家であり、法の適用に格差と差別が無く、しかも庶民を含めて民度(習慣を含めた文化)が高く、比較的低い予算で定住できるからという。
いずれにせよ前記したように、中国人の富裕層は情報に精通し、中国の将来が暗澹とした社会に向っていることを承知している。経済難民と言われようが、中国から逃げ出すことが勝ち組になると分かっているのだ。
(団勇人・ジャーナリスト)