ロシアで3月15日から行われていた大統領選の投票が17日に終了し、プーチン大統領が圧勝した。ところが、そのプーチン氏が投票日前に応じた国内メディアのインタビューでとんでもない発言をしたとして、世界に大きな波紋が広がっている。ロシア情勢に詳しいジャーナリストが解説する。
「プーチン氏による問題発言があったのは、同氏が選挙戦について国営放送『ロシア1』や『リアノーボスチ通信』などとの共同インタビューを受けた13日。その際、北朝鮮の核問題にも触れ、『北朝鮮は独自の“核の傘”を持っている。彼らは我々に(核と関連して)いかなるものも要請しなかった』と、あたかも北朝鮮の核保有国としての地位を認めるような趣旨の発言をしたという。当然のことですが、技術的に核兵器能力を保有していることと、国際的に核保有国の地位を獲得することとは別次元の話。プーチン氏の発言の真意はわかりませんが、公の場で核拡散防止条約(NPT)を無視し、北朝鮮の核保有国としての地位を認めるとも取れる発言をしたことに、関連国からも批判の声が起こっています」
現在、NPT体制で合法的に核を保有する国は米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国のみ。このほか、NPT体制外で核を開発し「事実上の核保有国」として世界が黙認する形でその地位を獲得したのが、インド、パキスタン、イスラエルの3カ国だが、実は北朝鮮もこのパターンでの核保有を狙って様々な動きを見せてきた。
「インドとパキスタンは核実験後、米国との交渉を経て核保有国の地位を確保し、イスラエルも米国との密約を通じ政治的に核保有国となったという経緯があります。そこで北朝鮮も両国と同様、核実験後に米国と交渉して、というルートを模索していたんです。ところが2019年、米朝によるハノイ首脳会談でその思惑が決裂。『事実上の核保有国』が遠のいてしまった。そこで、ロシアと中国を後見国として、政治的承認を獲得しようと画策してきたようですが、昨年からの蜜月もあり、完全にロシア寄りにシフトした。それが今回のプーチン発言に繋がったのではないか、というのが多くの専門家の見方です」(同)
ただ、大国の大統領が国際社会が反対するNPT体制外にある一国の「核保有国地位」を認める趣旨の発言をするなど、むろん初めてのこと。北朝鮮との間で一触即発の関係が続く韓国の情報筋の間からは、「プーチン氏が5月に大統領に就任したのち、北朝鮮を訪朝し、そこで核保有国の地位を認め実質的核協力に進むのではないか」といった懸念の声もあがってるという。
「実際、今も北朝鮮とロシアとの間では武器取引が続いているのは事実で、そんな中での発言ですからね。とはいえ現実問題、韓国が独自に核武装するのは難しい。となれば、同盟国である米国、さらには日本が何らかの形で矢面に立つ可能性は大きい。いずれにせよ、日本においても北朝鮮の核・ミサイル脅威に直接さらされるという意味では、韓国と同様。安全保障上、プーチン発言を軽くやり過ごすことはできないということです」(同)
今回の大統領選挙勝利で任期が2030年までとなり、旧ソ連時代のスターリンより統治期間が長くなるプーチン氏。今後もさらなる国際社会への揺さぶりは続きそうだ。
(灯倫太郎)