最前線に女性兵士を続々投入、イスラエル軍の「男女平等」が意味するもの

 昨年10月に勃発したイスラム組織ハマスとイスラエル軍との血で血を洗う戦闘が、今年に入ってもなお続いている。ロイター通信などによれば、パレスチナ自治区ガザ地区で戦闘を続けるイスラエル軍は20日、南部ハンユニスで大規模な軍事作戦を実施。同地にあるナセル病院付近では戦車による激しい砲撃があり、多くの負傷者が出た模様だと伝えた。

 負傷者の中に女性兵士がいるかどうかは確認されていないが、現在イスラエル軍における女性兵士の数は増加中で、本格的な地上戦突入以降、それまでは後方支援の役割を担っていた女性兵士らが、最前線での戦闘にどんどん参加してきているとされる。イスラエル軍に詳しいジャーナリストが解説する。

「イスラエルには1948年の建国以前から、前身である『ハガナー』というユダヤ人軍事組織があり、その組織では多くの女性たちが重要な役割を果たしてきました。そんなことから、イスラエルは現在も、満18歳になった国民に対し、男性は2年8か月、女性も2年の兵役を義務付けており、性差別なく徴兵制が行われている数少ない国として知られています。ただ、女性の場合、これまで配属先は衛生兵や通信兵などに限られていました。それが、2000年の法改正により『兵役の際も男性の権利と平等』とされたことで、この年に男女混成部隊『カラカル大隊』が創設され、理屈の上では最前線での戦闘行為が可能になったというわけなんです」

 とはいえ、上層部や一部男性軍人の反対などもあり、軍の職務の90%までは開放されたものの、さすがに、最前線に投入される主要歩兵部隊や、エリート特攻部隊への門は、まだ女性兵士には閉ざされていた、というのが現実だったようだ。

「ところが、昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃以降、状況ががらりと変わった。というのも奇襲当日、女性中佐率いるカラカル大隊が、ハマスの戦闘員と12時間もの戦闘を繰り広げ、それを見事鎮圧する大活躍を見せた。するとそのニュースが大々的に報道され、彼女たちに対する世間の見方が大きく変わり、国中に彼女たちの活躍を期待するムードが高まった。そんな追い風もあり、軍上層部も女性兵士の役割をどんどん拡大させる方針に切り替えたようです」(同)

 今回のガザ地区での戦闘に投入されたカラカル大隊のひとつを率いるのが、弱冠23歳の女性大尉だが、ガザ北部の最前線基地で男女部隊員83人の指揮をとる彼女は、「ニューヨークタイムズ」の取材に対し「その(性別の)境界は薄れている。軍でわれわれを必要とするのでわれわれはここにいる」と述べている。

「むろん、女性兵士増加の要因の1つに、今回のガザ地区での活躍があったことは間違いない。ただ、やはり2000年の法改正で、女性兵士が拒絶されない雰囲気が出来たこと、さらに男性の兵役期間短縮による兵士数の不足など、社会が変化してきたことも事実でしょうね。イスラエルという国の中で軍は、その中核を担っているといっても過言ではない機関です。つまり、軍の変化はダイレクトに社会全体へも影響を及ぼします。そういう意味では、国としては、女性兵士の大活躍で国民の意思統一が図れたと捉えているのではないでしょうか」(同)

 むろん、どんな場合でも「男女平等」であるべきだが、ただ、彼女たちが駆り出される場所が、戦場だということを忘れてはならない。

(灯倫太郎)

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