「徹底的に潰す」二大政党制の弊害/池上彰「トランプ危機」をズバリ解説(3)

──それでも、今年はトランプ中心に世界は混乱しそうです。池上さんはアメリカ大統領選を現地で取材され、どのような感想をお持ちでしょう?

 はい。ご存じの通り、アメリカは、事実上「共和党」と「民主党」の二大政党制になります。大統領選挙期間中はテレビのCMでも相手の悪口をガンガン放送し、相手が次に出てこられないように徹底的に叩くわけですよ。お隣の韓国でも、「国民の力」と「共に民主党」が徹底的に相手を潰そうとするわけです。これまで、二大政党制はどっちかが失敗したらもう片方が政権交代する。こうして民主主義は鍛えられていくものだと思っていました。ところが、アメリカや韓国の選挙を見ていると、二大政党制は結局は国の分断を招くだけじゃないかと思ってしまいます。

──なるほど、確かにそういう面がありますね。

 その一方、イスラエルは議会が1つの一院制で完全比例代表制なんです。つまり、多種多様な意見を国会に反映することができる、これぞ民主主義という言い方がされていますが、結果的に多種多様な政党が乱立し、圧倒的に強い政党がありません。必然的に連立政権となります。穏健なリベラル政党との連立を組むこともありますが、今のネタニヤフ政権にはパレスチナをイスラエルが占領すべきとする極端な政党と連立を組んでいます。そのためネタニヤフ首相がパレスチナに対し妥協しようとすれば途端に連立政権が崩壊してしまうわけです。結果として、完全比例代表制で多様な意見を反映させると、極端な政党に引っ張られるということになってしまう。

──それは恐ろしい。

 翻って、我が国日本は二大政党制と完全比例代表を足して2で割ったような小選挙区比例代表制です。小選挙区は二大政党制になりやすい。それを半分ぐらいにして抑え、比例代表とも並立させる。いわばいいところ取りなんです。

──しかし、昨年の衆院選で自公が少数与党となりました。

 はい、そのため自公は野党の意見を聞かなければ先に進めなくなりました。つまり少数与党になったことで「103万円の壁」が注目されることになったわけです。今まで与党が野党の意見なんか聞かないで自由にできたわけですが、今後は、与党は野党の意見を取り入れ、野党は無責任な法案を出せなくなる。結果として、少数与党はここで妥協しなければいけないという形になってきます。これが意外に分断を防ぐ仕組みになるかもしれないですよ。

──なるほど、これぞ民主主義ですね。少し希望が持てそうです。ありがとうございました。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。

*週刊アサヒ芸能1月30日号掲載

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