佐藤優「ニッポン有事!」アサド政権崩壊でも不介入 イランの支援なきシリアの道

 12月8日、シリアの反体制派が首都ダマスカスに進攻し、「ダマスカスが解放された」と宣言した。

〈ロシア国営タス通信は8日、ロシア大統領府の情報筋の話として、シリア大統領を辞任したアサド氏がモスクワに到着し、亡命を認められたと報道した。情報筋は「アサド氏と家族がモスクワに到着した。ロシアは人道的に判断し、亡命を認めた」と述べたという。〉(12月9日「朝日新聞デジタル」)

 アサド氏の大統領辞任と亡命によって、アサド派は、シリア政治のプレイヤーでなくなった。

 今回の事態を西側諸国もロシアもイランも予測していなかった。とりわけ動揺しているのがイランだ。アサド政権が崩壊する前日の12月7日にイラン政府が運営するウエブサイト兼ラジオ「Pars Today」は、ハメネイ(ハーメネイー)最高指導者の国際問題担当顧問を務めるアリー・アクバル・ヴェラーヤティー氏の見解について報じた。

〈「シリアに対する最近のテロ攻撃は、西側メディアと国際的な有力国により事前に仕組まれた行動である」とし、「そうした勢力は事実を真逆に偽装している。それは、以前はイスラエルがレバノン戦争に勝利したなどと西側の世論向けに吹聴し、今ではシリアのテロ組織タハリール・アル・シャームが間もなく同国のアサド合法政権を転覆させるだろうと主張しているからだ」と述べました。

 ヴェラーヤティー氏は最後に、「アメリカ、イスラエル、そしてアラブ諸国および非アラブ圏の両方の地域諸国は、イランが最後までシリア政府を支援していくことを熟知すべきだ」と強調しました。〉(12月7日「Pars Today」日本語版)

 しかし、イランはアサド政権を支えなかった。イスラエルとの緊張が深刻になっている状況で、イランにはシリアに介入する余裕がないからだ。

 シリアの今後のシナリオに関しても、イランの有識者が興味深い見方を示している。〈イランの大学教授で政治活動家でもあるフォアード・イーザディ氏が、シリアの最近の情勢変化に触れ、「シリアの将来には3つの選択肢がある」と語りました。

 テヘラン大学世界学部で教鞭をとるイーザディ氏は8日日曜、最近のシリア政変について「X」上において、「シリアの将来には3つの選択肢がある。第1の選択肢は、第2のリビアとなることであり、第2の選択肢は、米および児童殺害政権の新たな奉仕者となることである」と述べています。

 また、「第3の選択肢は、パレスチナ国民を支援し、外交政策において抵抗枢軸に留まり、国内政策における過去の弱点を正すことである」としました。さらに、「シリア国民およびイランの国民と政府は、第3の選択肢がより良いという意見を共有している」と書き込みました。〉(12月8日「Pars Today」日本語版)

 シリアでは宗教、部族意識が強く、シリア国民という意識が育っていない。この状況で最も現実的なのは、第1の選択肢、すなわちリビアのような破綻国家になるというシナリオだ。

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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