台湾総統選がいよいよ13日に迫った。与党・民進党からは頼清徳氏(現副総統)が立っているが、候補を一本化できなかった野党は、第1党の国民党から侯友宜氏(新北市長)が、そして台湾民衆党からは前台北市長の柯文哲氏が立候補し、3つ巴の戦いが展開されている。
2016年に民進党が政権を担って以来、台湾と中国の公式対話は停止したままだが、3候補はいずれも「台湾の現状維持に努める」と明言するものの、対中姿勢は大きく異なる。
「頼氏は『中国に奴属しない』『防衛力強化』を掲げていますから、中国との緊張関係がより鮮明になるでしょう。侯氏と柯氏は、中国との対話を示しており、どちらかが当選した場合には歴史が動く可能性があります。中国政府は頼氏を危険な分離主義者として見ているため、なにがなんでも野党に勝利してもらいたい。一方、民進党が勝利すれば前例のない3期目を迎えることになり、中国の苛立ちが増すことは想像に難くない。今後の米中関係を左右する意味でも、この台湾総統選の結果は大きいというわけです」(国際部記者)
習近平国家主席は新年の演説で、改めて中国と台湾の「統一」は必然だと述べたが、実は近年、中国は軍事活動を強化する一方、裏では中国移住希望の台湾の人たちに対し、家賃を低価格に設定、さらに起業に必要な資金融資で破格の優遇措置をとるなどして、露骨とも思える中国への取り込み政策を実施してきた。
「台湾農家の誘致を推し進める中国のある地方では、こちらで農業をやるのであれば、運用資金を通常の半分以下の利子で融資しますよ、と全面的なバックアップを謳い、台湾の人を呼び寄せているケースもあります。加えて中国政府が躍起になっている政策が、台湾の若い世代への働きかけです。中国はいま、若者の働き口がなく雇用情勢がとにかく厳しい状況にありますが、にもかかわらず福州市などは、18歳から45歳の台湾の若者が中国で起業した場合、200万円以下の借り入れなら初年度の利子を実質免除。さらに電気、ガス、水道料金にも補助金を支給し、起業後半年以上納税すれば20万円の補助金を出すなどと、台湾からの移住者には破格の優遇措置を取っているんです」(同)
しかも、こうした優遇措置をアピールして、たくさんの台湾同胞を誘致した人には4000万円の報奨金を支払う、と謳う自治体も現れているというから驚くばかりだ。
「ただ、こうした“台湾取り込み”を画策する中国に対し、台湾当局はキッパリと『“平等な待遇、経済的な利益”を隠れ蓑に台湾の人々を呼び込み、企業を中国の制度や規制に同化させ、共産党の指導を受け入れさせようというのは完全に希望的観測だ』と声明を出しています。中国としても軍事力で押さえつけるよりも、台湾がみずから望んで、という形をとりたいのでしょうが、現状、不動産バブルが崩壊して中国経済がガタガタの中、はたして台湾の若者たちが魅力を感じるかどうか。政策で大風呂敷を広げても、国の経済が先細りになっていることは誰の目にも明らかですからね。中国国内にも、台湾統一の前にまず自国の経済立て直しが先決という議論がありますから、いずれにせよ13日の台湾総統選が政府のみならず両国民とって最大の関心事となっているのです」(同)
現状維持か、前進か後退か…その行方はいよいよ明日に迫っている。
(灯倫太郎)