米中貿易戦争の火種が意外なところにも降りかかりそうだ。
8月29日、米紙ワシントン・ポストは「この広告紙面はチャイナ・デイリーが作成したものでポスト紙の編集や論説のスタッフは関与していない」と断り書きした折り込み紙面を配布した。
折り込み紙の名は『チャイナ・ウォッチ』。見た目は普通の新聞と変わらず、政治・経済・社会・文化の時事ネタが取り上げられる中身も普通の新聞とまったく同じだ。ただ、視点が中国寄りなことだけを除けば。
ウォッチの発行元は中国政府が運営する英字新聞の『チャイナ・デイリー』。つまり、ウォッチは中国政府が発行する「広告」なのだ。だから、ポストはそのことを明記した。「これはあくまで広告で、ポストが発行する新聞ではありませんよ」と。
だが、どんな弁解をしようとも、やっていることは結局は中国マネーにすがった中国プロパガンダの垂れ流しだ。メディアは特定のプロパガンダに加担してはならないという最低限の良心の呵責と、紙面構成には関わっていないというアリバイ作り…ポストが置かれた厳しい立場が透けて見えるようではないか。
ポストだけではない。『チャイナ・ウォッチ』はポストのほか、ウォールストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズといった名だたる新聞に、時には「広告」とは気づきにくい新聞紙面として、時には折り込み紙面として紛れ込んで配布されている。
洋の東西を問わず紙媒体のメディアは経営が苦しい。中国政府・共産党は、そんなメディアの厳しい台所事情に付け込んで、有名紙面も爆買いしてプロパガンダ操作に勤しんでいる。米中両政府の貿易戦争の出口が見当たらない今、ポストがとった行動が米国内の厳しい世論にさらされるのは必至と思われる。
事は対岸の火事ではない。2012に日本政府が尖閣諸島を国有化した際、ワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズは「尖閣諸島は中国のものだ」という記事を掲載した。その際も、今回のポストのように大きな“但し書き”があればまだしも、「広告」の文言はさりげなくあるのみなので、一見すると両紙の論説のように見えるが、主張はまさにプロパガンダ。
今年2月には、英ガーディアン紙がウォッチ問題を取り上げ、「海外30以上の大手メディアと提携し」プロパガンダまがいの記事をバラまいていることを追及。そして、日本においては毎日新聞に掲載されていることを報じた。
日本のメディアはなかなかこの問題を取り上げないが、一度、地上波のテレビ番組が取り上げたことがある。ウォッチが「ウィンター観光特集」を組んだ折だ。なんとその紙面でウォッチは「ウイグル自治区を観光地に」という主張を行っていたのだ。
中国の西端、新疆ウイグル自治区は少数民族を抑え込もうとする中国政府に反発してテロや暴動が相次いだセンシティブな地域だ。これを観光地化してしまうというのはもちろん、中国共産党の発想。これをウォッチが代弁しているというわけだ。
中国は、政府・党肝いりでプロパガンダを日常に忍び込ませている。
(猫間滋)