佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」たった63円で感謝の気持ちを伝える方法

 僕が「安いな」と思う筆頭に挙げているものが不人気だ。時代の流れで使われなくなっているのが年賀状である。今年の年賀状の発行枚数は14億4000万枚。去年と比べて一気に12%も少なくなった。国民おしなべて、1人10枚出すか出さないかというところまで減ってきたわけだ。

 ピークは03年で44億6000万枚発行されたというから、20年で3分の1に減ったことになる。

 僕は今年も近くの郵便局に出かけた時に少しずつ買ってきて、まずは住所書きから始めている。年末の忙しい時に一気にやろうとすると、小学生時代の夏休みの宿題みたいにおざなりになってしまうからだ。

 人生も後半戦に入ったというのに、やはり人が生きていく上での悩みの上位にくるのが人間関係。学生時代にクラブ活動もしてないし、会社組織で働いたのも短い間だった。これまで稼ぎの大部分が1人でやるものばかりだから、どうも共同作業に向いてない。子供の頃に協調性がないと通信簿に毎回のように書かれてきたから、こうして原稿を書くなど1人でできる仕事が向いているのだろう。

 組織の中できちんと揉まれなかったこともあり、人間関係を築くのが下手で、いらん誤解もされてしまう。そのたびに複雑な思いにさいなまれるが、それはそれで、仕方がないと思うようになってきた。

 だからということもあるが、人として最低限のことだけは忘れないようにしたいと思っている。それは、挨拶と感謝の気持ちを伝えること。死んだ親や恩師からもみっちり仕込まれた。「人間、感謝の気持ちを忘れたらおしまいだ。感謝の気持ちを忘れずに生きていけ」と繰り返し言われた。ありがたいなと実感できるようになると、自分の人生もまんざら悪いものじゃないと思えて、幸せな気分にもなれるものだ。

 ところが、色々としてもらって、その場ですぐに「ありがとう」と言えていればいいのだが、ついつい忘れてしまう。ああ、あの時、別れ際にちゃんと挨拶しなかったなあ。宛名書きをしている時にそんなことを思い浮かべる。

 12月の中頃までに住所書きを終えると、パソコンで年賀状の3分の2くらいの部分に近況報告や最近思うことなどの文章を書いて印刷する。そして余白の3分の1に、差し出す先の各人の顔を思い浮かべながら、ひと言書き添える。今年も1年、何とかやってこられたことへの感謝の思いを強くする時間だ。

 もちろん、今はメールやSNSという便利なものがある。年賀状を出す習慣が減ってきた主な理由だ。「あけおめ」「ことよろ」などで年始の挨拶を済ませているのだろうが、それは僕のスタイルではない。

 幼い頃、親に「挨拶はただすればいいわけでなく、きちんと立ち止まって相手の顔を見て会釈しなくちゃいけない」と言われた。そうしないと、挨拶を軽んじているように思われるからよくないと諭された。

 人間関係が大切だと思っているので、そこに時間や手間をかけることを惜しみたくない。年賀状を出す人の多くは大切な人ばかりなのに、年賀状のやり取りだけで終わってしまうことも少なくない。大切な人との年に一度の挨拶だ。だからできるだけ丁寧に、手間もかける。そうすることで相手に自分の思いが伝わる可能性が高まると思うのだ。

 挨拶や感謝の気持ちを大切に思っているから、メールではなく、手書きを添えた年賀状を送ることにしている。人生を歩んでくれば多くの人の支えによって生きてこられたことも、楽しい気持ちになれた経験もたくさんあった。そうした感謝の思いを伝えられるのが年賀状だ。それが、たった63円しかしない。安い!

 時代遅れかもしれないが、人間関係は丁寧に手間暇かけて手を抜かない。そんな昭和な男でいいと思っている。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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