巨人が5年ぶりのセ・リーグ優勝に邁進している。球団史上ワーストタイとなる4年連続V逸中のチーム再建へ向けて、硬軟自在の采配術を駆使しているのが、3度目の指揮官就任となった原監督だ。昨季までとはガラリとチームの雰囲気を変えた「原マジック」の奥義に迫った。
昨オフ、V奪還を目指して巨人に原辰徳監督(61)が帰ってきた。しかし、第3次原内閣の顔ぶれを見た球団関係者の多くは当初、「本当に大丈夫なのか」と口をそろえ、一様に不安げだったという。
1軍のコーチ陣はほぼ一新。コンディショニングコーチを除くと、7人中で昨季からの留任は吉村禎章打撃総合コーチ(56)だけだ。その7人の面々のうち宮本和知投手総合コーチ(55)と元木大介内野守備兼打撃コーチ(47)、鈴木尚広外野守備走塁コーチ(41)、相川亮二バッテリーコーチ(43)はプロでの指導経験がまったくない。昨季まで韓国の斗山ベアーズで打撃コーチを務めていた後藤孝志打撃兼外野守備コーチ(50)も、古巣・巨人での1軍スタッフ就任は今回が初。そして6人の新任コーチの中で唯一巨人での1軍指導経験がある水野雄仁投手コーチ(53)にしても、現職に復帰したのは実に18年ぶりのことである。
12球団で、これだけの数の1軍コーチ未経験者をそろえたチームは巨人のほかには見当たらない。春季キャンプ前から球団上層部の間では、
「相当なレアケース。チームに綻びや不協和音が一度生じた際、ほぼ新任で固められたスタッフに、それらの軌道修正を図れるのだろうか。経験不足のメンバーばかりであるところには、どうしても不安が募る」
との声も上がっていた。ところが、原監督は動じることなくこう反論したというのだ。
「私が三度、ジャイアンツの監督就任をお引き受けしたのは、若いコーチ陣たちの育成もテーマとして掲げたいと考えているからです。結果が出なければ文句を言われてもしかたがないが、それまでは黙っていていただきたい」
これまで幾多の修羅場を乗り越えてきた名将の言葉には重みがあったようだ。まず手始めに、春季キャンプでは積極的な声出しでチームの雰囲気を大きく変えた元木コーチを「キャンプMVP」に選出。「なんで俺が‥‥」と元木コーチはてれくさがっていたが、うれしくないわけがなかった。原監督に近い球団関係者が言う。
「元木の1軍コーチ抜擢は原監督のバクチだった。選手時代はクセ盗みなど他人がマネできない天才的な能力を発揮する一方、『清原軍団』の一員として素行の悪さも目立っていたからね。だから原監督は元木を最初から気分よく乗せ、反発してグレないようにやりやすい環境を作った。元木も意気に感じて、今や『フォア・ザ・チーム』の急先鋒的存在として奮闘中だ。若い野手陣にアメとムチを使い分けながらチーム内でも信頼を集め、名コーチとして着実にステップアップをしている。こういう原監督の目の配り方は『さすが』と言っていいよね」