イスラエルの暗殺部隊「ニリ」の狙いと実力「ハマスの奇襲部隊1500人を殲滅する」

 イスラエルの現地メディアがスゴ腕の暗殺部隊「ニリ」の新設を報じたのは10月22日。これまでパレスチナ自治区ガザでは8000人以上が犠牲になっているが、イスラエルの報復攻撃はやむ気配がない。

 国際ジャーナリスト・山田敏弘氏が解説する。

「ニリが設立された目的は10月7日の奇襲攻撃に関わった部隊・ムフバの戦闘員や関係者を一人残らず消し去ること。その数は1000人から1500人と言われています。今後、ニリは、治安機関『シンベト』や、ハッキングを得意とする8200部隊を擁する軍の諜報機関『アマン』と連携しながら、標的を殲滅していくと思われます。メンバーの数はわかりませんが、暗殺を専門とするスゴ腕のプロ集団と言えるでしょう」

 ガザ地区には総延長500キロと言われる地下トンネル網が敷かれ、身を潜める場所はいくらでもありそうだが、

「すでにハマスの幹部が55人、ムフバの部隊長も何人かが殺されたという情報も入っています。一方、最高指導者を含めて、ハマスの幹部の中には、レバノンやカタールで優雅なホテル生活を送っている者もいる。こうした国外の標的を追うのはモサドの仕事。ニリの主戦場はガザ地区で、難民キャンプや地下の拠点に逃げ込んだムフバの戦闘員を追い詰めていくと見られます」(前出・山田氏)

 イスラエル国民の記憶に深く刻まれているのが、72年にドイツ・ミュンヘン五輪で起きたテロ事件だ。パレスチナの過激派組織「黒い9月」が選手村を急襲し、イスラエルの代表選手やコーチら11人が殺害された。対外情報機関モサドは、報復を誓い、テロリストの暗殺に乗り出す。いわゆる「神の怒り作戦」だ。

「事件の実行犯や計画した首謀者をリストアップし、20年の歳月をかけて関与したパレスチナ人を追跡しました。そういう意味で、イスラエルはかなり執念深い。今回の殲滅作戦もいつまで続くか。ネタニヤフ首相は『ハマスがいなくなるまで戦いは終わらない』と言っていますし、ニリによるムフバの殲滅作戦は、かなりの長期戦となりそうです」(前出・山田氏)

 戦況は刻一刻と変化している。ガザでは連日イスラエルによる空爆が行われ、国連はイスラエルに「戦争犯罪」と警告を発した。

「ガザ地区において多くの民間人が犠牲になっているのは事実ですが、病院の地下や国連施設のそばに軍事拠点を作っているのはハマスの戦略。巻き添えで亡くなった人たちをイスラエル批判の宣伝材料にしているのです」(前出・山田氏)

 たとえ国際社会で厳しい批判にさらされても、暗殺計画が中止されることはなさそうだ。

「気になるのは、現時点でハマスに拘束された人質が報復攻撃で1人も犠牲になっていない点。40カ国226人と言われる外国人の人質が空爆で亡くなれば、それこそ国際問題に発展しかねません。イスラエル側はむやみに空爆を続けているわけではなく、どこで誰がどんな動きをしているか、ある程度は把握できているはず。今後は、包囲網を敷く〝屋根のない監獄〟で、ドローンや銃によって、よりピンポイントに標的を殺害していくのではないでしょうか」(前出・山田氏)

 世界が注目する復讐劇はどんな結末を迎えるのか。

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