昨年10月のイスラエル軍のガザ地区侵攻後も徹底抗戦を続けるイスラム原理主義組織ハマス。そんな同国の北に国境を接するレバノンを拠点とするのは、同じくイスラエルと敵対関係にある武装組織ヒズボラだ。
以前からイスラエルが実効支配するゴラン高原で衝突を繰り返してきたが、ガザ地区侵攻後は激化。イスラエル軍の報復攻撃も大きなものとなり、7月30日にはレバノンの首都ベイルートを空爆。ヒズボラのフアド・シュクル司令官が亡くなったことが分かった。
「ベイルートはイスラエルとの国境から約100㎞離れていますが、レバノンは政府軍も空軍が脆弱。首都は地中海に面しているため、海からの侵入を容易に許してしまうんです」(中東情勢に詳しい大手紙記者)
すでに国境に近いレバノン南部では、イスラエル軍の攻撃によって民間人にも犠牲者が出ている。今後もベイルートへの攻撃が繰り返されることが想定され、日本は8月5日にレバノン全土の危険情報を4段階中もっとも高い「退避勧告」に引き上げた。これはロシアと戦争中のウクライナと同レベルのものだ。
ところで、レバノンといえば保釈中だった19年末に出国した日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告の逃亡先。日本だけでなく世界各国が自国民にレバノンからの退避勧告を行っている現在、ベイルートの空の玄関口であるラフィク・ハリリ国際空港では各航空会社が次々と定期便の運行を停止している。そのため、今後の行方も気になるところだ。
「ゴーン被告は、日本とフランスの両国から国際手配中の身。レバノンのパスポートを所有しているとの噂はあるものの、国際刑事警察機構(ICPO)の加盟国は196カ国。海を隔てた隣国には非加盟国の北キプロスがありますが、加盟国のトルコの事実上の属国でリスクが高い。逃亡先を第三国に移すのは難しいでしょうね」(同)
レバノンに留まるほうが安全とも言えるが、こちらもリスクがないわけではないようだ。
「空爆の被害に巻き込まれることもゼロではないですが、いちばん怖いのは協力者の裏切りです。政府の庇護下とはいえ、それはゴーン氏の宗教が政府最大派閥と同じキリスト教マロン派だから。イスラム系政権が誕生すれば反故にされる可能性があります」(同)
誰よりも今のレバノン情勢が気になるのは、ゴーン被告本人なのかもしれない。