芸能事務所「有限会社あずさ2号」の唯一の専属歌手、狩人のふたりに新曲を発表させてからしばらく経って、初めて「うちに5日間営業に来てもらえませんか?」というお電話を頂戴いたしました。確か山形県の方だったと思います。いやぁ、あの時は本当に嬉しかったですねぇ。
それからはもう俄然、やる気満々です。営業の仕事をやらせてもらえそうな企業やホテル、商工会議所や各自治体の催事実行委員会、あとは音響会社に企画書をバンバン送りました。ほら、うちは通販会社ですから、カタログやチラシを作ることはお手のものでございます。
企画書にはこう書きます。
「私の会社に兄弟デュオ・狩人のふたりがいます。ぜひ、狩人のふたりをイベントで使っていただきたいんです」
これまでの狩人は1ステージが100万円でしたが、高すぎるので80万円にしました。2ステージで160万円です。さらに、この160万円という文字に大きく「×」をつけて、「ディスカウントで100万円!」としました。通販の値引きとまったく同じ方法で、お得感をアピールしたのです。
出来上がった企画書を日本全国に約5000通ほど送ったと思います。切手代が80円だったと思うので、まあ、5000通出しても40万円の出費ですむわけです。
このディスカウント手法が功を奏してか、次第にあちこちから営業に来てほしいと仕事が舞い込んできました。それでなんと、初年度は1億円ほどの売り上げを達成! 80万円の仕事で1億円ということは、年間約120本ですよね。それまで年間1~2本の営業しかなかった彼らの仕事を120本に増やすことができたわけです。
ところが、こうした歌のお仕事は掛け持ちができないのが難点。地方であれば前日に前のりしたり、翌日後帰りというのもあるのでその分、日数をとられてしまう。開催日もだいたい土日祝日が多いから、せっかくお声がけいただいたとしても重なってしまうんです。
狩人のふたりは「社長、やっぱり安売りしちゃダメなんだよ」と最初は言っていましたが、結局のところ1億円の売り上げになりましたし、なんだかんだで本人達には2500万円ずつ。うちの会社も5000万円の利益となりました。なにより、お客様に喜んでいただけるというのがいちばんの喜びでしたね。それは通販事業とまったく同じ感覚です。
そんなこんなで日本全国、各地を営業で飛び回っていた狩人のふたりですが、なぜだか領収書を持って来ないので不思議に思っていたんです。地方で仕事をする時には宿泊費やら交通費、食事代などがかかっているはずなんだけど、請求してこない。あれ? 新しい事務所だから遠慮しているのかな?…と思ってある日、問いかけてみたところ、
「あの~、とても言いにくいことなんですが…恥ずかしいんです」
と、なにやらモジモジと言うのです。よくよく聞いてみたら、領収書をもらう時に「あずさ2号ですっ!」って社名を言うのがよっぽど恥ずかしかったというのです(笑)。
石田重廣(いしだ・しげひろ)株式会社夢グループ、株式会社ユーコー代表取締役社長。1958年7月1日生まれ、福島県出身。自ら出演する「夢グループ」のテレビショッピングで大人気。2022年、保科有里とのデュエット曲「夢と…未来へ」で歌手デビュー。昨年8月30日に第2弾シングル「やすくして♡」を発売、ネット上でも話題に。